ヤナセ呉服橋本社時代の失敗談である「東京の熊狩り」事件をご存知ですか?
梁瀬長太郎社長は、知人から強引に頼まれシベリアから連れてきたヒグマを預かる羽目になり、工場の奥に檻を作り飼育していたそうです。当初は丸く太った小熊だったようですが、事件が起きたときは背丈が1.8メートルにもおよぶ手に負えない大熊となっていました。以下は梁瀬長太郎夫人による思い出話です。このときは年末で忙がしく3日間餌を与えるのを忘れていたとのことです。
皆で元旦の祝いをしていたところ、階下ですさまじい音がする。友人の友人という人からあずかって、細長い工場の奥は細い板で作った檻の中に飼っていた熊が、元旦の大雪に故郷を思い出したのか、のそのそと出てきてしまったのだ。皆は騒ぎ出し、憲兵隊に連絡するやらの大騒ぎになった。あわれ熊は近くの鉄砲店の息子にしとめられて事なきを得たが、「東京の熊狩り」ということで新聞でも有名になった。
(出典:梁瀬利子著『福寿草』より)