ヤナセのショウルームが美術愛好家の注目の的だったことをご存じですか?
現在、東京支店MBショウルームに展示されているこの彫刻は、大正時代に梁瀬長太郎社長が購入したもの。作者のブールデルは、「考える人」で有名なロダンの弟子で、この作品で一躍世間から認められました。日本橋本社時代は写生にくる美術学校の学生や見物客で毎日引きも切らなかったそうです。
ダイナミックな生命感が率直に表現され、鋭く彫り込まれた表面の起伏や緊張に満ちた、いかにも男性的な剛健な力に満ちている。私は毎朝会社に出勤するたびに、このヘラクレスに負けまいと自分自身に言い聞かせているのである。そのヘラクレスが今なお、本社の玄関に厳然として我々の行く道を力強く指してくれている。我々はもう一度、全員でこのヘラクレスを見直してみるべきではないかと思う。あの姿こそ、我が社の永久のスピリットとしたいものである。
(出典:『轍』第一巻より)