INTERVIEW 前田陽一郎さん(コンテンツディレクター)

Mercedes-AMG SLは、日本の季節を楽しむ最高のツールになりそう

ドイツ語でライトウエイトスポーツを意味する「Sport Leicht(シュポルト・ライヒト)」という名を冠したメルセデス・ベンツ伝統のSLシリーズの最新モデル、Mercedes-AMG SL 43。ソフトトップへの回帰を果たし、あらためてオープンスポーツカーとしての存在感を際立たせるこのモデルは、果たしてファッション&ライフスタイルの視点でどう映るか。稀代のライフスタイルメディアの元編集長に聞いた。

  • 2023年03月16日
  • 文:オリジナルコンテンツ編集部
  • 撮影:高柳健

ファッションとは
自分の可能性を広げてくれる小道具

メルセデスのスポーツクーペの最高峰、SLシリーズ。映画『ハイ・ソサイエティ』でフランク・シナトラとグレース・ケリーが乗り込んだのは190SLだった。『アメリカン・ジゴロ』でリチャード・ギヤが駆ったのは450SL。歴代SLが出演した映画を数え上げればキリがないが、そのどれもがエレガントなライフスタイルを象徴する重要な役回りであるのは言うまでもない。一方で、「Sport Leicht(シュポルト・ライヒト)」という名が示す通り、SLの本質はライトウェイトなピュアスポーツカーである。およそ10年ぶりに満を持して発表された新しいSLは、それまでの正常進化と思えたクーペカブリオ (格納式メタルトップ) からクラシカルな幌(ソフトトップ)に回帰しながら、ダウンサイジングされた排気量、初の2+2シートレイアウトの採用に踏み込み、新しいSLの進化の行先を暗示する。

今回ハンドルを握ってもらったのは、大人のラグジュアリーライフスタイルを提唱する人気雑誌、LEONの元編集長であり、現在はファッションブランドのアドバイザーから、ヤナセのオリジナルコンテンツほか様々なメディアでコンテンツディレクターとして活動する前田陽一郎さん。自身もオープンカーを何台も所有してきた経験から、あらためてソフトトップを得たメルセデス・ベンツのオープンスポーツカーの魅力について伺った。

「僕にとってファッションとは自分の可能性を広げてくれる小道具なんです。平たく言えば、妄想とか夢とかを見させてくれるものというか。それは大好きなクルマの存在も同じです」

10代の頃からファッション誌の制作に関わり、40代に入ってからは人気雑誌の編集長として、常に最新トレンドの情報の中にいた前田さんだが、実はトレンドそのものにはあまり意味を感じないという。大事なのは、トレンドをわかったうえで、そのトレンドの何が自分を変えてくれるか。それをわかりやすい形で読者と共有することが雑誌作りの醍醐味であり、役割だと考えているそう。

日本はオープンカーに最適な国だというのが持論

「ファッションにしろ、クルマにしろ、何かを手に入れるということはそれを手に入れた自身の変化を、イメージすることだと思います。ファッションに例えるなら、まず一着のジャケットを買うという行動には何かしらの動機があるはずです。それはいま愛用しているジャケットが古くなったからという理由かもしれませんし、ただなんとなくかもしれません。けれどもいざ購入するとなると、素材、色、形などできっと悩むはずです。なぜ悩むか。それは自分のもっているその他のワードローブとのコーディネートを想像したり、そもそも似合うかどうかも気になるからでしょう。どこへ着ていくかも重要ですよね。それらはすべてイマジネーションです。一着の洋服を買うという行為は自分の可能性を最大限にイメージするクリエイティブな行為なんです」

ところが個人のイマジネーションには限界があると前田さんは言います。その限界というのが“自分の殻”だそうですが。

「髪型が典型例です。女性はトレンドとともに、年齢に関係なくメイクや髪型が変わっていきます。そういう意味では女性はきちんと自分をアップデートできるのでしょうね。一方で男性ときたら、もう何年も同じ髪型だという方も多いのではないでしょうか。それは自分の殻が固くなっている証拠かもしれません。イメージの拡張ができずにいるのではないでしょうか」

ここからクルマ選びへと話は移行する。

「少々話は逸れますが、SUVに乗っていてもなにも聞かれないのに、オープンカーに乗っているとしばしば“開ける機会ある?”と聞かれたものです。SUVを目にしてその積載量を指摘して“そんなに積む機会ありますか?”など愚問ですよね。機能というのはその機能の先の体験の可能性を担保するもの。逆に言えば、その機能がなければ体験できないものがきっとある、ということなんです」日本でオープンカーを楽しめるのはほんの一時期だけだと思われがちです。でも、それは所詮降水確率や気温の話でしかありません。むしろ日本はオープンカーに最適な国だというのが持論です。春に桜が咲く中を屋根を開けて走るドラマチックな瞬間といったら例えようがありません。天気のいい夏の明け方に海沿いを走る爽快感はもちろん、秋に少し寒くなってきた外気を感じながら、パノラミックに紅葉を駆け抜ける体験も最高です。ヒーターを強く効かせながら肩口を冷気が通っていく心地よさは冬ならではの楽しみです」

夜が明けて、これから慌ただしく動き出す東京丸の内を出発。SLのまわりの風景だけが特別な時間に

SLは久しぶりに
イメージを無限に拡張させてくれる

つまり、新しいジャケットを手に入れることも、新しい髪型に挑戦することも、オープンカーを所有することも、自分が想像し得なかった体験の「可能性」の扉を常にオープンにしておくことだと断言する。

「もうひとつ、街中でオープンにして乗るのは見られているようで気恥ずかしい、なんて声も聞かれますが、僕自身も経験上まず街中で屋根を開けることはほぼありませんでした。やっぱり気恥ずかしいし(笑)。何より、喧騒の中で屋根を開けても気持ちよくない。むしろ先ほどお話しした例えばなしのように、それぞれの季節の一瞬を最大限楽しむために“屋根が開く”という機能を備えていることが大切なんだと思います。むしろ、自分の殻を破るための準備やアクションがあるかどうかなんです。そのひとつがオープンカーを所有する意味だと思っています」

では実際に試乗してみて、このSLにどのような体験イメージを前田さんは持ったか。

「職業柄たくさんのオープンカーを試乗させていただきましたが、それらはすべて数秒で格納可能なクローズドボディさながらの最新のハードトップを備えたものが大半でした。一方で20代の頃から4台のオープンカーを所有しましたが、そのどれも手動の幌車ばかり。よく言えば最新の技術と、かつての幌の風合いを知ってはいます(笑)。そんな自身の経験を踏まえて言えば、SLは久しぶりにイメージを無限に拡張させてくれるものでした」

そのうえで前田さんがSLに対して描いた特別感について、続けてくれた。

「今回、メルセデスは2000年のSLKから続く格納式のメタルトップをクラシカルな幌へと変更しています。車両上部の軽量化に寄与しているとも伺いましたが、僕はそのルックスそのものに“屋根が開く”と言う主張を感じます。主張という表現が違うなら、機能を隠さずにデザインしている、というか幌そのものがデザインになっているように見えますね。さらにクローズドトップに引けを取らない静粛性にも驚きました。かつて所有してきた幌車とは隔世の感があります。これなら年に数回しか屋根を開けなくとも、そのために犠牲にするものなんてありませんね」

日常の外側に自身を解放してくれるのが
ファッションでありSL 43

さらに前田さんのSLのあるライフスタイルイメージは、後席を備えた「+2(プラスツー)」という、SL史上初の仕様によってさらに広がる。

「嬉しいのが伝統の2シーター(歴史上一部例外あり)ではなく、小さくても後席を設けてくれたこと。推奨される身長はあるようですが、このスペースがあることで、小さなお子様を乗せて家族でオープンエアを楽しむことが可能になりました。荷物を満載して長期の旅にも使えそうじゃないですか。メルセデス随一のライトウェイトスポーツカーとしての乗り味を楽しみながら、ファミリーカーやグランドツーリングカーとして楽しみの余地を残してくれていることがすごいと思うんです」

インタビューをしながらの試乗の道中で前田さんと話したのは、今回のテーマとなったファッションとオープンカーをさらに俯瞰したマーケット観だった。曰く、ファッションもオープンカーも、生活必需品ではないかもしれない。けれども、日常の外側に自身を解放してくれるのがファッションでありオープンカーなのではないだろうか、と。

ところで前田さんが人生ではじめてパーマをかけたのは40歳を過ぎてから。その理由はやはり、今回お話しされていた「自分の殻」からの脱却だったそうだ。50代になったいま、あらためてオープンカーに目覚めそうと加えてくれた。

今回の取材車両

Mercedes-AMG SL 43

1954年発売から約70年の長い歴史を持つ“ラグジュアリースポーツ”の代表格であるSL。7代目となるMercedes-AMG SLは、徹底したパフォーマンスラグジュアリーモデルとしてMercedes-AMGによって専用開発されました。

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