あらゆるクルマ評価の基準となるのがCクラスなんです

自動車ジャーナリストとして数々のメディアに寄稿する一方で、自身も多岐にわたるメディアの編集長を歴任、日本カーオブザイヤーの選考委員も務める九島辰也さん。そんな九島さんにとって、Cクラスとはどんな存在か。Cクラスの歴史に新しいモデルが加わった今、歴代のモデルを試乗し、論じられてきた経験をもとに、あらためて綿々と受け継がれてきたモデルの魅力を語っていただいた。

  • 2021年09月22日
  • 文:九島辰也
あらゆるクルマ評価の基準となるのがCクラスなんです

Cクラスはあらゆるクルマのベンチマーク

W201
メルセデス・ベンツ初のDセグメントとして1982年に発表、1993年まで12年に渡って生産された。日本への正規輸入は1985年。排気量によってはメルセデス初の5ナンバー枠に収まっていたこともあり、ブランドの認知と普及に貢献した。導入されたのはガソリンのインジェクション仕様の触媒付きとディーゼル仕様。

自動車業界におけるCクラスのポジションは特別である。ひと言で表現するなら“ベンチマーク”。自動車業界が有するカテゴリーにおいて、かなり広い範囲で基準になるクルマだと信じている。
そう思い始めたのは、1995年に遡る。当時所属していた編集プロダクションの社長がそれを口にしていたのを発端とする。
その会社は雑誌の編集を外部として受けていた。社長は元自動車雑誌の編集者で、その昔は自動車メーカーに勤務していた人物。クルマを理路整然と語るのが得意であった。そして私が広告業界から転職して入った時は、ある自動車雑誌の新車コーナーをメインに会社を運営していた。
新車コーナーとは、文字通り最新モデルを実際に試乗し、解説するページである。メインとなる原稿はモータージャーナリストの方々にお願いするが、それ同等に理解する必要があった。今日私自身のモータージャーナリスト活動の基盤はこの頃築き上げられたと言える。
その社長の持論が、Cクラスをベンチマークにすることだった。あらゆるクルマを評価する上で、Cクラスを基準に考えると分かりやすいというものだ。動力性能、ハンドリング、乗り心地、静粛性、安全装備云々と、チェック項目は全方位に広がる。そのため社用車にCクラスを購入していた。オリビア・ブーレイ氏がデザインしたW202型である。
おもしろかったのはそれがディーゼルエンジンだったことだ。当時の日本ではまだディーゼルはトラックやバスのエンジンと位置付けされていたが、常にヨーロッパメーカーやその市場を見ていた自動車雑誌業界では、それが近未来の乗用車のエンジンと信じられていた。彼の地で“クリーンディーゼル”なんて言葉が出始めた頃だったと思う。長距離ドライブをデフォルトとするヨーロッパでは、好燃費や扱いやすさで重宝されていた。

試乗の後、W202で帰宅する安堵感

W202
四角いヘッドライトなど190シリーズからイメージを踏襲しつつ、全体に丸みが加わったデザインに。1993年5月にデビュー。190シリーズ比に比べて全長が70mm、ホイールベースが20mm拡大したことにより後席の居住性が改善されている。Cクラス初のステーションワゴンであるC230 ステーションワゴンを追加。

それはともかく、確かにCクラスを箱根などで行われる試乗会の足に使うと、他メーカーとの違いがよくわかった。堅牢なボディと中速域からさらに安定するハンドリングは秀逸で、特に国産メーカーのクルマとの違いは明白だった。箱根のワインディングを散々走り回った帰り道、Cクラスのステアリングを握るとどこか安堵すら覚えたのを記憶する。
もちろん、今日の国産メーカーはその時よりずっとクオリティは上がっている。高剛性のプラットフォームを手に入れ、走りは数倍よくなっていることを付け加えよう。堅牢なボディを手に入れたことで、柔らかいサスペンションのセッティングで走りを楽しめるようになった。

Sクラスの動向が見逃せないジャーナリストの見地

W203
2000年9月より日本での販売開始。開発コンセプトに従って、コンパクトなスポーティを打ち出している。W202で好評だったステーションワゴンを全グレードにラインナップ。外観では、ひょうたん形のヘッドライトが特徴。

あれから四半世紀が経っているが、今も基本的には同じ考えを持っている。メルセデスが送り出すCクラスには毎回新たな技術が投入され、それが広い範囲のカテゴリーでデフォルトとなり、かつベンチマークになっている。
ちなみに、メルセデスにはもう一台業界をリードするクルマがあるのでそれにも触れておこう。ラグジュアリークラスのトップランナーSクラスである。ここを見ずにクルマの未来は語れない。というのも、メルセデスにとってS クラスはフラッグシップであるとともに大切な一台となる。その系譜は戦前にまで遡るからだ。まだ自動車が大衆の乗り物でなかった時代からその先祖は存在していた。
なので、Sクラスにはメルセデス初は当然のこと、業界初の技術が投入されることが多い。いわゆる先端技術というもので、それが数年後業界全体に広がっていく図式となる。というのも、先端技術は開発費がかかるため初めは高額な車両にしか載せられない事情がある。そこで技術が高く評価され浸透していくと、コストとのバランスがとれCクラスに代表される広いカテゴリーに採用されるのだ。その意味ではモータージャーナリストの見地からもSクラスの動向は見逃せない。

時代の変化を感じさせたW203からW205への系譜

W204
2007年1月18日に正式発表され、欧州では同年3月31日に発売。外観ではヘッドライトを始めとしてSクラスと類似したデザインとなり、ポジショニングを一気にミディアム・プレステージへと高めている。また、「アバンギャルド」のグレードはグリル中央に大型のスリーポインテッドスターを配した、いわゆる「クーペ・グリル」が採用された。

話をCクラスに戻そう。
W202もそうだが、その次にリリースされたW203も忘れられない。独特なヘッドライトを海外のメディアが“ピーナッツアイ”と呼んだモデルだ。発売直後、また別の自動車雑誌のムック本を制作する理由でかなり触れた。印象的だったのは鈴鹿サーキットで行われた試乗会。進化したCクラスが予想を上回るスポーティさを持っているのがわかった。W202とは異なるステージに上がった気がした。
その証拠に、このモデルに関してメルセデスはBMW3シリーズなど他ブランドの名前を発表時のアナウンスに取り入れた。これまで唯我独尊のごとくコンペティターについていっさい触れなかったスタンスを変えたのだ。これにはメルセデスをよく知る業界関係者はビックリ。皆時代の変化を口にした。その背景にはCクラスユーザーの若返りを図る目的があった。高齢化するユーザーの平均年齢を若返らす作戦だ。そのため、BMW3シリーズなど競合の名前を出し、スポーティさをアピールしたのだ。
W204そしてW205は高級路線へ舵を切った。それぞれW221、W222といったその世代のSクラスに繋がるデザインを積極的に採用したのだ。背景にはエントリーモデルとなるAクラスのマーケットでの浸透があるだろう。言ってしまえば、クラスの格上げができるようになった。結果、クルマの仕上がりも販売も好調。W204はデビュー時の2007-2008日本カー・オブ・ザ・イヤーとマイナーチェンジ時の2011-2012日本カー・オブ・ザ・イヤーで、W205も2014-2015日本カー・オブ・ザ・イヤーにおいて、それぞれインポート・オブ・ザ・イヤーを受賞している。選考委員をつとめる立場から言わせてもらうと、高い点を投票するに値するクルマである。この時期の運転支援システムは目を見張る進化だった。

Cクラスはいつも我々クルマ好きを驚かせてくれる

W205
日本では、2014年7月にセダンが発表され、ステーションワゴン、クーペとカブリオレが順次導入された。安全運転支援システムもSクラス譲りのものにバージョンアップされている。2つのステレオカメラと6つのレーダーで周囲の状況を把握し、運転を支援する。「レーダーセーフティパッケージ」を全グレードに設定。
W206
2021年6月に発表となったCクラスの最新モデル。エクステリアとインテリアのデザインにおけるSクラスとの近似性はさらに進み、高級感とスポーティな印象をさらに強めている。ハイブリッド・マイルドハイブリッドの電動化技術を全グレード採用した。後輪操舵を初めて採用し、高い安定性と旋回性の良さを両立する。

そして今年6月、Cクラスとして5世代目となるニューモデルが発表された。スポーティな走りと高級感ある佇まいに、スタイリッシュさが加わった。ここ数年メルセデスがデザイン言語として使用する「Sensual Purity(センシュアル ピュリティ)」、日本語で言うところの「官能的純粋」がうまく取り入れられている。要するに、艶っぽいメルセデスである。今回も先に市場導入されている新型Sクラスのコンテンツが多く注入されているようだ。
なんて感じでCクラスに関する主観と思い出を徒然なるままに書いてみたが、一番思い入れのあるのは所有したこともあるCクラスの先祖190Eかもしれない。高級ブランド、メルセデス・ベンツが送り出したコンパクトセダンに誰もが驚いた。今思い返せば、そのコンセプトはかなり画期的だったと言える。
それを鑑みて言えるのは、Cクラスはいつも我々クルマ好きを驚かせてくれること。ブランドは保守王道に見せかけて、やることはけっこう大胆だったりするからおもしろい。残念ながらまだ新型を試乗できてはいないが、触れればきっと驚きの連続だろう。ニュースリリースには書かれていないナニかを見つけられるに違いない。今は一日も早くそのステアリングを握ることを楽しみにしている。

九島辰也

九島辰也
九島辰也(くしま たつや)●モータージャーナリスト兼コラムニスト/日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員/2020-2021日本カーオブザイヤー選考委員/日本ボートオブザイヤー選考委員 1997年以降モータージャーナリスト活動を主軸にしながら、「Car EX(世界文化社 刊)」副編集長、「アメリカンSUV/ヨーロピアンSUV&WAGON(エイ出版社 刊)」編集長などを経験。その後メンズ誌「LEON(主婦と生活社 刊)」副編集長、フリーペーパー「go! gol.(ゴーゴル;パーゴルフ刊)」編集長、アリタリア航空機内誌日本語版「PASSIONE(パッショーネ)」編集長、メンズ誌MADURO(マデュロ)発行人・編集長などをつとめる。2021年7月よりロングボード専門誌「NALU(ナルー)」編集長に就任。自由が丘出身