69年の歴史を紡ぐ新型コルベットC8の存在感と「GM魂」
ヤナセはドイツ車を含め多くのブランドを幅広く扱っているが、自動車事業は1915年にヤナセ創業者である梁瀬長太郎の経営による「梁瀬商会」が、GM製キャデラックとビュイックの販売を開始したことにさかのぼる。8代目の新型コルベットが登場し、販売も好調であるが、その事業を支えるヤナセグローバルモーターズ代表の山本政志と新車・中古車担当の大三川泰生に話を聞いた。
- 2022年02月03日
- 文:堀江史朗
- 写真:高柳 健


歴代コルベットで初めて「ミッドシップ」と「右ハンドル」を採用したC8
ヤナセの歴史を語るにあたり、アメリカ最大の自動車企業GM(ゼネラルモーターズ)との関係は外せない。最新コルベットは8代目なのでC8と呼ぶが、初代C1はシボレー初の2シーター・オープンカーとして1953年にプロトタイプが発表され、翌1954年に生産が開始されている。当時としては画期的構造とデザインを採用しており、またスチール製フレームにFRPボディを換装するという、量産車としては初の試みもあった。
フロントエンジン・リアドライブのいわゆるFR駆動方式を採用してきたが、C8にして初めてシートバックにエンジンを載せるミッドシップを採用した。ミッドシップばかりに関心が集まりがちだが、ヤナセにおいて長くGM車両を担当する2人に、順に新型コルベットの魅力をひも解いてもらおう。用意した試乗車はコルベット2LTだ。



アメリカで多くの人にリスペクトされているコルベット
-まずはお2人の仕事の経歴を教えてください。
山本:私は1980年にヤナセに入社しました。最初の配属は芝浦GMサービスで職種はメカニックでした。当時はキャデラック、シボレー、ビュイック、ポンテアックなど、GMだけでおそらく30車種以上のラインアップがありました。当時は芸能人、野球選手、スポーツ選手など多くの著名人がキャデラックに乗っていただいていました。以来GM一筋で40年以上ですから、我々はヤナセにおける「GM魂」だと自負しています。
大三川:私の入社は1990年になります。東京支店練馬営業所にセールスとして配属されました。販売車種はメルセデス・ベンツ、フォルクスワーゲン、アウディ、そしてGMなど。入社2年目の途中からGM専任として異動になりました。それから約30年はGMオンリーですから、逆に言えばGMしか知りません。その中でもコルベットは特別な車です。アメリカのケンタッキー州にあるコルベットミュージアムを訪れたこともありますが、そこでアメリカにおけるコルベットへのリスペクトの大きさ、私たちの想像以上に深くコルベットが多くの人に愛されていることを確信しました。

いまや貴重なNA&6.2ℓV8 OHVエンジン
-新型コルベットの魅力を教えてください。
山本:まずは今回ミッドに搭載されたエンジンでしょう。ターボやスーパーチャージャーなどの過給機などが付いていないので、実際に見るとシンプルでサイズも小さいですね。スーパーカーとしてはずいぶん遅れたミッドシップ化と思われる方もいるかもしれませんが、コルベットはすでに1970年のニューヨークモーターショーに「XP-882」として、ロータリーエンジンを搭載したミッドシップレイアウトのコンセプトカーを出展しています。ずっと温めていた企画であり、満を持してのデビューといったところでしょうか。
この6.2ℓのV8エンジンは構造がシンプルで耐久性も高い。今やNA(自然吸気)の大排気量は貴重ですし、OHVエンジンのスポーツカーは、もうアメリカにしかないでしょう。
大三川:最高出力502PS、最大トルク637Nmというコルベット史上最高スペックを誇るこの6,156ccのエンジンには、筒内直接噴射アクティブ・フューエル・マネジメント(気筒休止機構)が備わっていて、それに8速DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)が組み合わされるので、0-60マイル(約97㎞/h)2.9秒という俊足ながら、現代のスポーツカーとして十分に実用的な燃費が確保されています。





右ハンドルになったことが実用性の向上に大きく寄与
-実用性としてラゲージスペースはいかがですか。
山本:今日は8.5インチのゴルフバッグを持ってきました。ミッドシップエンジンの後方にこのサイズのゴルフバッグを二つ載せるスペースが用意されています。さすがに大型スーツケースというわけにはいきませんが、2名が快適なドライブ旅行を楽しむことは可能です。また取り外したデタッチャブルルーフを簡単に収納することが出来るので、オープンにすることをためらう必要はありません。
大三川:フロントにエンジンがないので、ボンネットにも深い収納スペースがあり、遊び道具やビジネスツールを仕舞うことができます。またフロントおよびリアリッドを開けるためにプッシュボタンが見えない位置にそれぞれ用意されているあたりも実用性を重んじるコルベットらしい配慮です。
そして実用性という点では右ハンドル仕様の導入は大きなポイントではないでしょうか。コルベットとしては世界で初めてと聞いていますし、これは日本マーケットをとても大事にしてもらっている証とも言えます。
山本:確かにそうですね。左ハンドルで設計された輸入車を無理やり右ハンドルに変更すると、シートポジションやハンドルのオフセットがチグハグで気になってしまうことが昔はありました。コルベットはスポーツカーですし、そのクオリティを気にされるオーナー様もいらっしゃると思いますが、今のところ不満の声などはありませんし、それよりも「よく出来た右ハンドルだ」といったお褒めの声も聞こえてきています。






左右独立したコクピットスタイルのインテリア
-インテリアはどうでしょう。
大三川:ドライバーズシートとパッセンジャーシートの間に大きなコンソールを設けた、いわゆるコクピットスタイルのインテリアデザインが特徴です。運転席と助手席の仕切りには左右独立した空調関連のスイッチを並び、8インチタッチスクリーンパネルが採用されています。この2LTに標準で装備されるのはGTバケットシートで、構造はカーボンファイバー製で、ナパレザーを採用。3LTとコンバーチブルにはコンペティションバケットシートを標準になっており、負荷が掛かるサイドサポート部には摩耗に強い繊維を使用しています。従来モデルと比べてドライビングポジションは400mm前方に移動しています。そしてエンジンの鼓動を背中に感じながら走るという新しさも、当たり前ですが今までのコルベットでは味わえなかったものです。






【実車体験を動画でご覧ください】
エンジン位置の変化とともにリアのプロポーションもボリューミーに
お客さまに伝えておきたいポイントを教えてください。
山本:エクステリアについて、エッジの効いたシャープなライン、そしてワイドトレッドによる安定感のあるシルエットはいかにもコルベットなのですが、ロングノーズ&ショートデッキスタイルがミッドシップ化によって、より後方にボリュームがあるプロポーションになっていますね。従来モデルのクオリティも相当高かったのですが、たとえばボディパネルの継ぎ目の美しさなど、より精度が高くなっています。
大三川:さまざまな走行モードが選べるのも新型コルベットの特長です。ステアリングやサスペンション、エンジンとシフト、ブレーキフィーリング、エンジン音などのコントロールが細分化されていますので、Myモードを自分好みのテイストを設定することもできます。
大三川は「コルベットはリアルスポーツカーですので、そのままサーキットで乗れるポテンシャルをもちながら、日用でも十分実用車として使えることがおもしろいですね。アメリカでは30代~70代までユーザーが愛用しているという懐の深さが魅力だと思っています。」としてコルベットの説明を括った。
山本の口にした「GM魂」。こういった長い経験と確かな知識が、信頼に繋がるのだろう。
