Mercedes-Benz emblem

メルセデス・ベンツ最新のエンブレム。
聖書にある言葉も起因する変更点とは。

現代のメルセデス・ベンツのブランドアイデンティティーになっているスリーポインテッドスターのエンブレムには、ダイムラー・モトーレン・ゲゼルシャフト(DMG)とベンツ&シー(Benz & Cie)が歩んできた歴史が込められている。

  • 2021年01月15日
  • photo:Daimler
  • 参考資料提供:Daimler Archives
  • 文:伊東和彦/Mobi-curators Labo.
メルセデス・ベンツ最新のエンブレム。聖書にある言葉も起因する変更点とは。 イメージ
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現代のSクラスに備えられている、ボンネット上のスリーポインテッドスターのマスコットとエンブレム。そのルーツは、19世紀後半に遡る。
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1926年、ダイムラー・モトーレン・ゲゼルシャフト(DMG)とベンツ&シー(Benz & Cie)が合併したことで、このエンブレムが誕生した。現代のメルセデス・ベンツに備えられているものの源流だ。
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1926年以降に使われるようになった、フロントノーズに備えられるエンブレム。それ以前からスリーポインテッドスターはじめ立体的な視覚効果が施されている。
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合併によって、メルセデス・ベンツ車が誕生したことを告げるポスター。この2個のエンブレムが融合された。
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DMGは創業以来、スピードの象徴である翼をあしらった非常に複雑なデザインをトレードマークに使い続けていた。これは1897年のもの。筆記体のDMGも同時に商標登録されていた。

世界最古の自動車メーカーのエンブレムに見る「引き継いでいく姿勢」

メルセデス・ベンツの象徴、スリーポインテッドスターを月桂樹で囲んだエンブレムの基本形が完成したのは1925年2月18日のことだった。
ダイムラー・モトーレン・ゲゼルシャフト(DMG)とベンツ&シー(Benz & Cie)が1926年夏に合併するのに先だって、ダイムラー・ベンツAGの新しい紋章を意匠登録するためであった。
その新しい紋章は、自動車界の両雄が対等に合併したことを暗示したかのように、双方のエンブレムを巧みに融合したものだった。このとき誕生したエンブレムは、現在まで連綿と使い続けられている。
ここでは、あまり紹介される機会のないDMG社とベンツ&シー社の各エンブレムの変遷について紹介しすることで、メルセデス・ベンツ車のブランドにまつわるエピソードを紹介してみたい。

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1903年になると、Benz & Cie.はエンブレムを、“Original BENZ”のロゴを黒いリングギヤで囲んだデザインに定めた。
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Benz & Cie.は、数多くの自動車レースで成功を収めていることから、1910年に月桂樹のリングで“Benz”のロゴを囲むデザインに改めた。

星と月桂樹を掲げたカール・ベンツ

ガソリンエンジン自動車の父と評されるゴットリープ・ダイムラーとカール・ベンツは、1880年代初頭からそれぞれ別々にガソリン車開発に没頭し、両者ともに1885~86年に完成(特許取得)させると、それぞれが生産に着手した。
カール・ベンツのクルマには複雑なデザインの商標やロゴを掲げてきたが、ひと目でベンツ車とわかるエンブレムを設定したのは1903年になってからで、それは“Original BENZ”のロゴを黒いリングギヤで囲んだデザインであった。1910年10月には、ベンツ車が数多くの自動車レースで成功を収めていることから、勝者が受ける月桂樹のリングで“Benz”のロゴを囲むデザインに改めている。

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DMGは1902年にモデル名をメルセデスに改めることを決め、エンブレムを変更した。
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DMG社は1909年にスリーポインテッドスターを会社の象徴として定めた。陸、海、空でダイムラー製のエンジンが使われていることで示している。
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DMG社のエンブレムは1916年に“Mercedes”のモデル名とスリーポインテッドスターを組み合わせたデザインに変更され、これが1926年の合併まで使われていた。
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1920年代に描かれたスリーポインテッドスターのラジエターマスコット。合併の際には周囲のリングを月桂樹とした試案もあったが、オリジナルのリングの意匠のままで、現在まで使い続けている。

ダイムラー社はメルセデスを商標に選ぶ

1900年12月、DMG車を扱う最大のディーラーであったオーストリア人実業家、エミール・イェリネックの発案によって、イェリネックが注文したダイムラー“35PS”は、彼の12歳の娘にちなんでメルセデスと名付けられた。
高性能なメルセデス35PSが、フランスで開催されたレースで連勝を重ねたことで、メルセデスの名はダイムラー車のブランド名として広く知られるようになり、1902年9月から“Mércèdes”のロゴマークがラジエターに掲げられるようになった。
1910年からは、Mercedesの文字と星を組み合わせた、まったく新しいエンブレムが用いられるようになった。星を加えることを提案したのは、ゴットリープ・ダイムラー(1900年3月没)の息子であるポールとアドルフで、彼らの父が、ガスモトーレンファブリーク・ダウツの技術部長を務めていた頃、会社所在地の風景を描いた絵葉書の中に輝く星をヒントにしたものであった。
商標登録の際には、同時に“フォーポインテッドスター”も申請しているが、ダイムラー製エンジンが陸、海、空で使用されていることを示すスリーポインテッドスターが選ばれた。
1916年の変更ではリングの中に“Mercedes”のレタリングとスリーポインテッドスターを組み合わせ、4個の小さな星を配したデザインに改められた。また、星をリングで囲んだスリーポインテッドスターのフロントマスコットが誕生したのは1921年11月のことで、ラジエターキャップの頂点に鎮座することになった。

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スリーポインテッドスターはリングのない意匠もあり、V字型のラジエターの左右に備えられた。これは1926年の合併前モデルだが、合併後はラジエターの中央にMercedes Benzのエンブレムが加えられた。
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1930年代のGPレースマシン、シルバーアローでは、フロントエンドにスリーポインテッドスターが描かれていた。これは現代のメルセデスF1でも同様だ。
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ラジエターグリルの中央にスリーポインテッドスターを配置したデザインは、1952年に発表された300 SLのレースカーで採用され、その後、スポーティーモデルに用いられるようになり、現在ではこのデザインが多数を占めるようになっている。
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グリル中央にスリーポインテッドスターを配置し源を辿れば、商用車に行き着く。タフなオフロードモデルとして登場したGクラスは登場時からこのデザインを採用していた。

両社のエンブレムを融合

両社のエンブレムは1926年の合併の際に融合され、メルセデス・ベンツの乗用車には、ラジエターマスコットとエンブレムが備えられるようになった。この様式は1990年代まで大きな変化はなかった。ただし、1953年から市販化がはじまった300SL以降のスポーツカーは例外で、グリル内にスリーポインテッドスターを配し、ボンネット上に月桂樹と星のエンブレムを備えていた。
また、1990年を過ぎるあたりから、フロントエンドから徐々にバッジが姿を消すようになり、スリーポインテッドスターのエンブレムと一体化されるようになった。近年では、星のマスコットを備えるモデルは限られるようになり、かつてはスポーツカー専用であったグリルの意匠がセダンやSUVにも用いられるように変化していった。

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Sクラスの最高級モデルに用いられているマイバッハは、ゴットリープ・ダイムラーの右腕であったエンジン開発技術者であったウィルヘルム・マイバッハにちなんでいる。
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ダイムラーから独立したマイバッハは、1920年代からメルセデス・ベンツと双璧を成す高級車を送り出した。これはマイバッハのV12エンジン搭載車に備えられたマスコットとエンブレム。

最高級ブランドとしての復活のマイバッハ

メルセデス・ベンツのエンブレムを語るうえで忘れてはならないのが、Sクラスの最上位モデルの名称に使われているマイバッハである。
ゴットリープ・ダイムラーの右腕として、1885年にガソリンエンジン搭載の二輪車を完成させたエンジン開発技術者のウィルヘルム・マイバッハにちなんだ名称である。
マイバッハは1909年に独立して、息子のカールとともにエンジン開発・製造会社を設立。飛行船ツェッペリン号の推進用エンジンほか、船舶や産業用エンジンの分野で活躍した。1920年代に入ると自動車生産に着手し、第二次大戦まで当時のメルセデス・ベンツと双璧を成す高級車を送り出したあと、1952年にはダイムラー・ベンツの傘下に入った。こうした経緯から、2002年には最高級ブランドの名として復活を果たし、そのエンブレムはかつてマイバッハに備えられていたものの意匠を再現したものである。

はじめに闇があり、光が輝いた

ところで、最新のメルセデス・ベンツに備えられているエンブレムは、星と月桂樹の部分の下地がブラックになっていることに気付かれただろうか。
以前は星の背景部分がシルバー、月桂樹と“Mercedes Benz”ロゴ部分を濃紺とするのが基本であった。この変更は、コーポレートアイデンティティー(CI)の見直しによるもので、「星はどこで輝くのか?」を改めて考えることが起点といわれる。
星が輝く夜空とは宇宙であり、それは漆黒であるとの考えに至ったことに加え、「はじめに闇があり、光が輝いた」という記述が聖書にあることも重要な要素であった。さらにドイツ国旗に使われる、黒、赤、金の黒色が「名誉」を表していることも関係しているという。ブラック版が用いられるようになったのは、モデルベースでは5年ほど前からであった。

自動車メーカーの中には、エンブレムをまったく違うものに刷新する例もあるが、世界最古の自動車メーカーである現ダイムラーが、そのエンブレムに創業当時の意匠を引き継いでいく姿勢には、畏敬の念を抱かずにはいられない。

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約横7cm × 縦9.3cm × 高さ1.8cm
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直径各約1.5cm

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