絶景のしまなみ海道を穴場いっぱいのアナザールートで
広島県尾道市と愛媛県今治市を結ぶ「しまなみ海道」は、本州四国間の3つの連絡路のうち、もっとも西に位置しています。瀬戸内海の島々を縦断する瀬戸内自動車道は、周囲を絶景に囲まれたドライブルートとして人気を集めていますが、実は高速道路を使わずに移動する裏ルートも存在しているのです。広島市街から約1時間半で到着する「しまなみ海道」の島々で楽しめる、グルメや名所、絶景ポイントやおすすめドライブルートを紹介します。
- 2023年04月06日
- 文:渡瀬基樹
- 写真:佐藤亮太
ノスタルジックな裏ルートを楽しもう
芸予(げいよ)諸島の美しい島々をつなぐ橋が織りなす「しまなみ海道」は、広島市街から気軽に行ける観光スポット。ドライブの舞台としてもぴったりな絶景が周辺に広がっています。近年ではサイクリストの聖地としても知られていますが、さまざまな島の魅力を存分に楽しむためには、やはりクルマでのお出かけが便利です。
標高の高い場所を突っ切る高速道路からの眺めは最高で、連なる島々のグリーンに瀬戸内海のブルー、早朝や夕方の赤く染まった夕陽のコントラストはまさしく絶景。日本でも指折りの景勝地といえるでしょう。
しかし、この瀬戸の島々には、そんな王道コース以外にも魅力が詰まっています。高速道路での快適ドライブを「表ルート」とすると、今回ご紹介するのは「裏ルート」もしくは「アナザールート」。上から見下ろす絶景とはちょっと違った、海面を間近に眺めながらのドライブが楽しめます。
スローライフかつ、ちょっとノスタルジックな風景が広がる島々の魅力をたっぷり味わえる、ちょっとゆったりしたドライブコースをご紹介します。
向島の兼吉港から尾道市街方面を見ると、対岸までの近さがはっきりわかる。奥の山の中腹には多くの建物が並んでおり、尾道が「坂の町」であることが実感できる。
所要時間はわずか5分!たった130円の船旅
しまなみ海道の広島側の入口に位置するのが尾道市。美しい寺院やレトロな町並みが山の中腹から頂へと広がる「坂の町」です。
市の中心部から芸予諸島へと向かう場合、一般的には尾道駅から東に約2.5kmに位置する高速道路か、平行する国道317号の尾道大橋を通って、対岸の向島(むかいしま)へと渡ります。
しかし、今回はあえて昔ながらの渡し船を使ってみます。尾道と向島の間には、なんと3本もの渡船があり、2本はクルマも乗れるフェリーになっています。このうち最古の航路である、駅から東に約800mの尾道渡船(兼吉渡し)を利用してみました。
「日本一短い船旅」というキャッチフレーズがついているように、対岸の向島まではあっという間。日中は5分~10分間隔で運行されており、始発は向島(兼吉)発が6時、終発は尾道(土堂)発が22時です。
料金は、全長4690mmのCLAクーペなら130円(運転者1名含む)。同乗者は1名ごとに100円が追加されます。電車やバスのようにとても気軽に利用できるのは、公共交通機関であることの証といえるでしょう。
対岸の向島についてみると、町並みがグッとひなびた光景に。住宅や個人商店や並び、昭和の香りが漂うノスタルジックな雰囲気が徐々に広がっていきます。
できたてのチョコレートとドリンクでゆったり
北端の兼吉港から、南側にある高見山の中腹まで向島を縦断します。くねくねした道の先にあるのが、公民館やセミナーハウスのような公共施設風の建物。尾道市が管理する「立花自然活用村」の2階にあるのが、チョコレート工場「USHIO CHOCOLATL(ウシオチョコラトル)」です。
カカオ豆と砂糖のみのシンプルなチョコレートを製造するメーカーで、販売されている六角形のタブレット(板チョコ)は、1枚ずつ手作りされています。店内には多種多様な味わいのオリジナルチョコレートがずらり。パッケージも個性的で、尾道在住のアーティストが手がけたものも。全種類をコンプリートしたくなるような魅力にあふれています。
できたてのチョコレートはおみやげにもピッタリですが、せっかくなので併設されているカフェで販売されているドリンクと一緒に味わいたいところ。店内にはゆったりできるソファやテーブルが並んでおり、窓の外に広がる瀬戸内海の光景を眺めながら、気持ちの良い時間を過ごすことができます。
USHIO CHOCOLATL 尾道店
広島県尾道市向島町立花2200
0848-36-6408
営業時間:10:00~17:00
定休日:火・水曜日
http://ushiochocolatl.com
海の近くをドライブできる「ゆめしま海道」
向島からは高速道路で移動。次の因島でいったん、しまなみ海道からルートを外れ、因島の南部にある土生港から再び渡し船に乗って、対岸の生名島(いきなじま)へと向かいます。こちらのフェリーは1時間に3~5本の頻度です。
この生名島と弓削島、佐島、岩城島は3つの橋で結ばれており「ゆめしま海道」と名付けられています。「ミニしまなみ」ともいえる風光明媚なドライブルートですが、しまなみ海道と異なるのは、交通量の少ない一般道なので快適なドライブが楽しめるところ。そして比較的標高の低い場所を結んでいるため、海を間近に眺めることができます。
ゆめしま海道は信号やトンネルがないため、フォトスポットとしても人気がある道です。高速道路を使うより遠回りではありますが、景色や撮影を楽しみながらのドライブは、また違った味わいがあります。
今回は生名島から佐島、弓削島と渡って、Uターンして岩城島へと向かいましたが、因島から弓削島へと直接渡れる航路を利用すれば、ゆめしま海道を経由して、岩城島から生口島(いくちじま)へと渡る、一筆書きのルートを描くことができます。
生名島と岩城島を結ぶ岩城橋(写真左)は「ベタ踏み坂」として有名な江島大橋(島根県・鳥取県)のように、急勾配と錯覚するような写真を撮ることができる。
国宝や重要文化財が集まった「神の島」
ドライブを楽しんだら、生口島から高速道路で次の島へ。大三島は、全国の三島神社の総本社である大山祇(おおやまづみ)神社がある神の島です。
古くから山の神、海の神、戦いの神として朝廷や武士など幅広く尊崇を集めてきた大山祇神社。境内には国の天然記念物である大きなクスノキがそびえています。多くの国宝や国の重要文化財が保存展示されていて、武具類に限れば全国の8割が境内の宝物館に存在しています。
旅の安全をお祈りする拝殿や、奥にそびえる本殿も国の重要文化財。鎌倉時代の後期に兵火で焼失したものの、室町時代に再建され、現在に至っている建物です。
大山祇神社の門前町には、グルメスポットがいっぱい。瀬戸内の新鮮な海産物が味わいたければ、神社の目の前にある「大漁」へ。海鮮丼がリーズナブルに食べられるスポットとして、観光客やサイクリストに人気のお店です。
おすすめは10種類ほどの海産物が乗せられた「全部のせ丼」(写真右・1680円)。新鮮な魚介類と、ちょっと甘めの酢飯との絶妙のバランスがたまらない。営業しているのは平日と土曜日のランチタイムだけなので、注意が必要です。
ちょっと変わったランチを楽しみたいときは、7軒隣の「猪骨(ししこつ)ラーメン」がおすすめ。その名の通り、天然のイノシシの肉を使用したラーメンです。
大三島や伯方島では、名産品のみかんを食い荒らすイノシシを捕獲しています。命を無駄にしないための方法の1つとして誕生したのが、このラーメン。塩、味噌、醤油ラーメン(各900円)のいずれも、いやな臭みは一切なく、驚くほど洗練された澄んだ味わいです。
隈研吾さん設計の展望台から来島海峡を一望
旅の最後は、島ならではの光景を目に焼き付けられる場所へ。大三島からふたたび高速道路に乗って、2つ先の島である大島へ。小説『村上海賊の娘』で知られるようになった村上海賊(水軍)ゆかりの島です。
島の南端に位置する亀老山を、山頂まで登っていくと、登場するのが亀老山展望公園です。パノラマ展望ブリッジからは西側に来島海峡大橋が一望でき、晴れた日には西日本最高峰の石鎚山を眺めることもできます。
独創的なデザインの展望ブリッジ自体にも、ぜひ注目してみましょう。国立競技場やGINZA KABUKIZAなど多くの建築物を手がけた隈研吾さんの設計で、360度見渡せる展望台となっています。
展望ブリッジは24時間利用可能。季節や時間帯によってさまざまな美しさが楽しめるスポットで、特に夕方から日没にかけてのマジックアワーは、刻々と変化する美しさが存分に楽しめる。
広島方面へフェリーでショートカットできる
しまなみ海道周辺の旅をたっぷり楽しんだあとは、来た道を引き返して帰る……必要はありません。芸予諸島の南側の3島(大島、伯方島、大三島)から広島市街へ戻る場合は、大三島と岡村島を結ぶフェリーの利用がおすすめです。
大三島の宗方港と岡村島の岡村港を結ぶフェリーは1日5往復と、これまで利用した船より便数が少ないですが、1度マイナス方向へ向かう高速道路に比べて、大幅にショートカットできるのが魅力。自動車の運賃は2080円(4~5mの場合。運転者1名の旅客運賃を含む)です。
岡村島から呉市までは橋で結ばれており、このルートは「安芸灘とびしま海道」という名称がつけられています。ゆめしま海道と同様に、信号やトンネルのないワインディングロードで、ドライブをたっぷり楽しむことができます。
しまなみ海道(芸予諸島)は、広島在住の人の多くは1度は行ったことがあるかもしれません。しかし渡し船やフェリーをフル活用した旅を楽しんだことのある人は少ないはず。潮風を浴びながら、普段とは違う視点の景色を楽しめる「アナザールート」を、ぜひ楽しんでみてはいかがでしょうか。
- 住所
- 広島県広島市西区井口5-2-4
- TEL
- 082-277-6811(ショウルーム)
082-277-6811(アフターサービス)
休み:月曜日 第2火曜日・年末年始 ※月曜日が祝日の場合は営業、翌火曜日休み