INTERVIEW 細尾多英子さん(「HOSOO」コミュニケーションディレクター)
EQには最新のテクノロジーと手作業の繊細さが
絶妙にブレンドされた魅力があります
メルセデス・ベンツの電気自動車専用ブランド「EQ」のトップバッターとして誕生したEQC。そのフォルムは、たくましくかつ利便性の高いSUVという形をとりながら、流麗で伸びやかなルーフラインが洗練されたシルエットを描くという独特のもの。内燃機関から電気自動車へと、大きな転換点を迎えている現在において、モビリティの未来を内外面のデザインで表現する。そんなメルセデス・ベンツの変革のストーリーをうけて、「伝統を受け継いでいま残っているものというのは、時代にあわせて必ず変化していますよね」と語るのは、1200年を超える歴史をもつ伝統工芸である西陣織の老舗「HOSOO」のコミュニケーションディレクター、細尾多英子さん。
- 2024年03月15日
- 構成:前田陽一郎
- 文:青山鼓
- 撮影:高柳健
着物産業自体の産業規模縮小の中で
「HOSOO」が挑んだ革新
着物産業に関しては、1981年をピーク(1兆8000億円)に、2020年にはなんと9分の1(1925億円)にまで急速に市場規模が縮小していると言われている。その影響は、日本の伝統織物のひとつである西陣織とて同様だそうで、関係する多くの専門業者の廃業の話が後を絶たない。そんななかで、伝統を守りながらも革新的な発想で新たな西陣織の価値をつくり、世界を舞台に急進しているのが「HOSOO」だ。
「伝統を守りながら、時代にアジャストしなくてはならないのは西陣織もメルセデス・ベンツも同じなのかもしれませんね」と細尾さん。
HOSOOの代表であり、細尾さんの夫でもある細尾真孝さんはあるインタビューで「高い壁を越えないと技術は進歩しません」と答えているが、確かに現在のHOSOOに至るまでには大きな転換点がいくつもあったそう。その最大の壁が2008年、建築家ピーター・マリノからの「西陣織を店舗の壁紙に使用したい」というものだった。ピーター・マリノといえば、ルイヴィトンや、ティファニーなど世界のトップブランドの店舗デザインで知られる。オファーは紛れもないビッグチャンスだ。ところがそれまで西陣織は伝統的な反物用織機を使って、約32cm、最大でも70cm幅で織られてきたため、ソファーや壁紙に使うという発想そのものがなく、そのまま使用しても継ぎ目が目立って美しい仕上がりにはならないことが予想された。そこで「HOSOO」は150cm幅が織れる織機を開発することになる。誰も作ったことのない150cm幅の“西陣織”に社内でさえ懐疑的な声があがったという挑戦は、結果、世界的評価を勝ち得て、以降、グローバル市場で勝負できるファブリックブランドへと進化した。
細尾さんは、東京での外資系企業のPR、マーケティング職を経て「HOSOO」12代目、代表取締役・細尾真孝さんとの結婚を機に京都に移住。進化する「HOSOO」、そして西陣織が紡いできた数多の物語を国内外に伝えながら、商品企画にも携わる。
「運転している感」と快適さのバランスがいい
パーソナリティーを感じるクルマ
日常の移動では991型ポルシェカレラSカブリオレに乗っているという細尾さん。電気自動車であるEQC 400 4MATICをどう感じるのか。
「EVってもっと味気ないものかと思っていましたが、EQCはタイヤが地面を蹴って走っている手応えがしっかりありますね。フィーリングがすごくいいです。普段乗っているポルシェでは人馬一体になったような“運転している感”があるんですが、同じものをEQCにも感じます。さらに静かで、乗り心地も快適ですね」
都心のストップアンドゴー、細かい車線変更を繰り返しながら細尾さんは笑顔を浮かべてEQCを走らせる。聞けば京都でも主な移動手段はクルマらしく、そもそも運転が好きとのこと。しっかり加速し、そして減速する細尾さんのメリハリの効いたドライビングに、EQCは余裕をもって応える。最大300kWを発生するモーターによる力強いトルクと、0-100km加速わずか5.1秒というパワー。リアのセルフレベリング機能を備えたエアサスペンションがもたらす安定したハンドリング性能と優れた耐振動性による快適な乗り心地。細尾さんはそれらを「楽しさと居心地良さのバランスがいいですね」と表現する。
最高峰の美意識を満足させる西陣織が
EQCのインテリアと調和する
「西陣織は、皇室や貴族の誂えものにも使われてきた生地です。日本最高峰の審美眼と美意識をもっている人たちが満足するものを作るのがミッションでした」と語る細尾さんに、EQCのデザインの印象について尋ねない手はない。
「まず、この横長のディスプレイはすっきりしていてとてもいいですね。その周りにはライトがあって気持ちを高めてくれる感じがします。きれいに磨かれたマットなアルミと光沢のあるパーツが切り替わっているところも好きです。曲線と直線のバランスがすごく美しいと思います。内装は素材の切り替えを多用することで立体感を演出しながら、伝統的な手作業の温もりのようなものを醸すことが上手いですよね。別に色を変えなくてもよさそうなところにも、わざわざ手を掛けていますが、そこかしこに工芸を思わせる質の高さを感じます」
ドライバーを包み込むようにデザインされた運転席。これは細尾さんがいう居心地の良さにも繋がる要素だ。また細尾さんが挙げた、10.25インチの2つのディスプレイをガラスで融合させた高精細ディスプレイは、最新のEQシリーズで採用されている最新のデジタルコクピットの特徴でもある。いつも持ち歩いているという西陣織のバッグをパッセンジャーシートに置くと、細尾さんは目を輝かせた。
「手前味噌かもしれませんが、EQCの内装とこの西陣織のバッグ、それから今日はいているスカートも自社の新作なんですが、なんだかピッタリのコーディネイトになって嬉しい」
アクセサリーをつけない和装のとき、貴族たちが競ったのは生地の美しさだったそう。箔を使うことで光り輝く西陣織が、EQCの上質なレザー素材とのコントラストで高め合う。ドイツのラグジュアリーと日本の伝統工芸が織りなすエレガントな世界がそこにあった。
触れてわかる、ものの価値
そこに西陣織の可能性があると思うんです
試乗を終えた細尾さんは「やっぱり、クルマは運転してみないとわからないですね」とつぶやく。イノベーティブなラグジュアリーEVと言葉で伝えられるだけではなく、結局手触りや肉眼で見てもらうことで初めて伝わるものがある。それがものの価値というものなのだろう。
「HOSOO」でもまた、2023年2月にイタリア・ミラノにインテリア向け素材のショールームである初の海外拠点「HOSOO MILAN」をオープンさせた。
「やっぱりテキスタイルなので、触らないとわからないんですよね。ヨーロッパの人は生地の良し悪しを見極める審美眼が高いので、直接見てもらえれば説明しなくてもわかってもらえるんです。これからも西陣織を残していきたいと考えたら、やっぱり作り続けないと技術は残っていかないので、長く作り続けるためにも、拠点をもっと増やして多くの人に触れてもらいたい。まだまだ西陣織を広めていけると思っています」
「一般的に見ると西陣織は高価な素材ですが、そのクオリティは西陣という地域内における分業という専門性の鍛錬によるものです。そこにはシャンパーニュに似た地域のストーリーがあり、それこそが西陣織の価値でもあります、それを伝えていくことが大切だと思っています」と細尾さん。
EQに共通するテクノロジーには先進安全装備という技術もあることをここでふと思い出す。京都と東京をインテリジェントドライブで移動できることで、移動時間にゆとりを生み出すことができれば、住んでいる場所によらず世界に向けて西陣織を発信するパワーに変えられるのではないか。
「確かに京都と東京をサンプルを持って移動することは多々あります。その労力をインテリジェントドライブが補ってくれるなんていいですね!」
HOSOOによる西陣織のクラッチバッグとスカートのコーディネイトでEQCを乗りこなす細尾さんのスタイルはまさに伝統と革新をもって時代を切り開いてきたドイツの老舗が作る次代の自動車と、日本を代表する西陣織との絶妙なコーディネイトになったようだ。
HOSOO TOKYO
今回試乗記をいただいた細尾さんがコミュニケーションディレクターを務める『HOSOO』のショールームが東京にも。世界をマーケットに見据えた新しい西陣織の世界を体感できる場所となっています。
住所:東京都中央区八重洲2丁目2番1号 東京ミッドタウン八重洲1F
営業時間:11:00~21:00
電話:03-6225-2245
URL:https://www.hosoo.co.jp/showroom/tokyo/