INTERVIEW フェルディナント・ヤマグチさん(コラムニスト)
EVになってもG-Classの良さは健在
“乗り慣れた愛車”のような感覚を覚えました
本業は半導体・電子部品業界で働くビジネスマン。その傍らで多くの雑誌やWEB媒体に寄稿する人気コラムニストのフェルディナント・ヤマグチさん。覆面を被っているのは本業の関係で素顔を明かせないからだという。現在は東京と宮崎でのデュアルライフを実践し、宮崎ではMercedes-AMG G63に乗っている。現役のG-Classオーナーに、G 580 with EQ Technology Edition 1はどのように映るのか。実際にステアリングを握っていただき、感想を伺った。
- 2025年02月13日
- 文:高橋 満
- 撮影:尾形和美



過去、魔が差してG-Classを手放し
後悔の念に駆られていた
これまで乗ってきた愛車の9割がドイツ車だというフェルディナント・ヤマグチさん。メルセデス・ベンツはS124型Eクラスステーションワゴン、S210型Eクラスステーションワゴン、R230型SL500などに乗ってきたという。
「メルセデス・ベンツの良さを一言で表すなら”安心感”です。私が乗ったクルマはどれも大きなトラブルなく乗り続けることができましたし、ドライバーの思い通りに動いてくれる機械としての緻密さも魅力です。幸い私は事故を起こしたことはありませんが、万が一の際はしっかり守ってくれるのも大きな安心感になっています」
G-Classは10年ほど前にG 350 BlueTECを購入。しかし、数年で手放してしまったそうだ。
「デザインやラグジュアリー性、運転のしやすさ、雪道でも安心して走れる頼もしさ……。不満は一切なかったのに魔が差して売却してしまったので、G-Classが手元になくなってから思い切り後悔しました。そしていつかまた乗りたいと思い続けていました。昨年にMercedes-AMG G63(以下、G63)を手に入れたことで、ようやく後悔を断ち切ることができました」



3tを超える車両重量なのに
フィーリングがG-Classのまま
そんな“愛するG-Class”が電気自動車(EV)を送り出すと聞いた時、耳を疑ったという。どうした、メルセデス。なぜGでEVなんだ。理屈抜きにエンジンを積んでこそのGだろう……。しかし今回G 580 with EQ Technology Edition 1(以下、G580)に試乗し、G-Classのファンとしての不安・不満は払拭された。
「まず待ち合わせ場所で対面して、デザインがG-Classのままだったことに安心しました。もちろん何度か写真でその姿は見ていましたが、実車を見て『ああ、これはGだ』と、いい意味で裏切られましたね」
ドアを開けてクルマに乗り込み、ドアを閉める。EVになっても堅牢であることは変わらない。車内のスイッチ類の配置も普段乗っているG63と一緒だ。車両重量は3tを軽く超えるのに、アクセルを踏み込んだ時の獰猛な加速やブレーキのフィーリングもG63に近い。
「G 580を運転したのはこの日が初めてですが、まるで“乗り慣れた愛車”のような不思議な感覚を覚えました。これは見事と言うしかありません。お世辞抜きに『さすがメルセデス、わかっているな』と思いましたよ。嬉しかったのは、車内の匂いまで私のG63と同じだったことです。もちろん試乗車がおろしたてだったからでしょうが、『EVも同じ匂いがするのか』と笑みがこぼれました」



オーナーが大切にするのはヒストリー
メルセデスはそれをわかっている
なぜヤマグチさんが“変わらないこと”にこだわるのか。それは自分を含めたオーナーの多くが、G-Classのヒストリーを含めて購入しているからだという。
「1979年からほとんど姿を変えずに現在まで生産されていること、時代の要求に応えて快適性やラグジュアリー性を高めながらも圧倒的なオフロード性能を捨てなかったこと。これら一つひとつの歴史がファンにとって、なくてはならないものなのです」
2024年7月のマイナーチェンジではフェイスリフトを受けるとともに、空力性能が向上。エンジンにはISGが備わり、Mercedes-AMG G63にはAMG ACTIVE RIDE CONTROLサスペンションが初採用された。常に進化しながらも、変えない部分は頑なに守る。その姿勢がG-Classに絶対必要なものだとヤマグチさんは話す。
G 580は、巨大なリチウムイオンバッテリーを床下に搭載。4輪それぞれに独立したモーターを搭載しながら、G-Classのオフロード性能に欠かすことができないラダーフレーム構造やリアのリジットアクスル構造を受け継ぎ、デザインも変えることなく登場した。G-Classは変えてはいけない。開発陣の執念が伝わってくる。
「その執念は車名からも伝わってきます。コンセプトモデルが発表されたときはEQGという名称が使われていましたが、市販車は、EVになってもG-Classであることが伝わってくるモデル名がつけられました。普通の人には些細なことかもしれません。でもファンにとってはこういう部分がとても大切なこだわりになるものです」



G-Classもヤナセも老舗的な存在
だから誰もが安心できる
G 580には、4輪独立モーターだからこそ実現した機能であるG-TURN/G-STEERINGが備わっている。これらは舗装路や公道では使用できないため、今回の試乗では体験することができなかった。でもこういう進化は大歓迎だという。
「たとえばハイスペックなダイバーズウォッチ。『これは3000m防水だ』と言われても、腕時計に興味がなければ『いったい誰がその機能を必要とするんだ』と笑うでしょう。でもオーナーは『水深3000mまで潜ってもこの時計はきちんと時を刻んでいる』というストーリーに惚れ込むのです。もし私がG 580を手に入れたら、すぐに友人が経営するゲレンデまで行って、G-TURNとG-STEERINGを試したいですね」
「変わらないことの意義。それはクルマの販売にも言えますよね」。ヤマグチさんはこう話す。1952年にメルセデス・ベンツ車の販売を開始し、70年以上もメルセデス・ベンツを扱ってきた歴史。ヤナセにはその積み重ねがあるからこそ、信頼してクルマを買い、購入後も安心して任せられる。
「言うなれば、老舗ですよね。老舗の良さは、決してお客さんを裏切らないこと。逆に言えば、歴史があるから裏切れないのかもしれません。だからこそお客さんは何世代にもわたって付き合うことができるし、これからメルセデス・ベンツに乗ってみたいと思った人も、安心して入口をくぐることができるのでしょう」
もちろん、歴史にこだわるだけでは老舗になることはできない。日々努力を重ね、必要なら新しいものも躊躇なく取り入れる。だからこそ新しいお客様もやってきて、裾野が広がっていく。G580に試乗し、G-Classとヤナセの思わぬ共通点に気づくことができた。
