INTERVIEW 江口大介さん(ECW-SHOTO店主)
Mercedes-AMG G63はエンジンを搭載したゲレンデヴァーゲンの
最終進化なのかもしれませんね
渋谷区松濤にあるヴィンテージ時計・洋品店、ECW-SHOTO。店主の江口大介さんはその高い審美眼で、時計業界のみならずファッション業界の信望も厚い。そんな江口さんの愛車は1997年製のG320。自身の愛車をして「傷だらけですが、そこがいいんです」というその真意と、江口さんから見たMercedes-AMG G63とは。ヤナセ本社がある港区芝浦から松濤のショップまで、実際に運転をしていただいた。
- 2024年12月19日
- 文:前田陽一郎
- 撮影:高柳健
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たくさんのクルマに触れる中で、
際立っていたメルセデスの堅牢性
「祖父がヤナセのメカニックだったんです。のちに独立して修理工場を立ち上げて、父親はそこを引き継いたんですが、結局僕は別の道を歩みました。ただ、クルマは好きですし、すごく身近な存在でした。経営方針だったのか、いわゆるスーパーカーからミッレミリアに参加できるようなクラシックカーまでが入庫するような店舗で、本当にたくさんの“いいクルマ”に触れることができましたね」
3代目として事業を引き継ぐことはなかったとはいえ、物心ついた頃から多様なクルマに触れる機会に恵まれたことで、自然とクルマの知識は蓄えられ、同時に見る目も養われたそう。ただし、入庫してくるクルマが上記のような塩梅だったこともあり、個人の趣味は真逆の軍用車や街乗りに最適なコンパクトカーへと傾倒していったという。
はじめてのメルセデスは詳細な仕様や年式は忘れてしまったが、Cクラスのセダンだった。外装は相当にくたびれてしまっていたそうだが、駆動系は大きなトラブルにも見舞われず、その堅牢ぶりに驚かされた。
「父親から“メルセデスに乗るんだったら走行距離は気にしなくていい”と、むしろちゃんとメンテナンスされている個体なら、少々走行距離が行っているくらいがほかのメーカーとの差がわかっていいと教わりました。極端な話かもしれませんが、走行距離が長くなればなるほどに、メルセデスの機械としての堅牢さや作りの正確さが際立ってくることの例えだったんだと思います」
事実、現在の愛車であるG320は手に入れたときすでに走行距離は100,000kmを超えていて、周囲からは反対の声がないわけではなかった。それでも気にせず購入できたのは父親の言葉と自身の経験と、メルセデスへの信頼だった。
「確かにメルセデスは高級車なんですが、それ以上に僕にとっては“頑丈なクルマ”なんです。そしてその頑丈なクルマを作っているメーカーが作ったオーバースペックとも言えるオフロードモデルがGクラスなのだから、丈夫でないはずがないですよね」
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五感に訴えるアイデンティティが
きちんと継承されているというのも魅力
今回試乗で使用した車両は全長4690mm、全幅1985mm、全高1985mm、最高出力585PS、最大トルク850Nmを発揮するAMG 4.0L V8直噴 ツインターボエンジン「M177」を搭載するマットブラックの仕上げが精悍な印象のMercedes-AMG G63 Launch Edition (ISG搭載モデル)。フロントマスクの下部両側のエアインテークのデザインとAピラーの上部両端が丸くデザインし空力特性向上と風切り音低下を実現したことが新しい2024年仕様車だ。意外にもMercedes-AMG G63は今回はじめて自分でハンドルを握るのだそうだが、対面した感想を伺うと
「自分のG320がショートボディなので、やはり長いですね。あと前後のフェンダーの張り出しも手伝ってか、ひと回り大きいクルマに見えます」
乗り込む際にキーレスゴーの説明を受けると「実用としての進化を考えればそのあたりは当然の装備になっていくんでしょうね」と関心しつつ、<ガチャ>という独特の金属音を伴ったドアの開閉音に対しては「機能ではないけれども、五感に訴えるアイデンティティはきちんと継承されているというのもいいですね」とのコメント。さらに、スタートボタンによるエンジンの始動方式に関しても「Gクラスにはこの方式の方が似合いますね!機械が目を覚ますような感じがして」とも。このように進化していく部分と、守っていく“らしさ”の共存がGシリーズの魅力であることは間違いない。一方でますますデジタル化が進むインパネ周りに関しては、
「デジタル化されて便利になるのも進化だと思いますし、デザインそのものも現代的。一方でハザードスイッチやデフロック機能の切り替え、エアコンスイッチなどに操作感のあるアナログスイッチが採用されているところに“道具”としてのアイデンティティを感じます。聞けば、アナログスイッチを採用しているのは目線を変えずとも操作しやすいようにという配慮からだそうですが、そういうストーリーがあちらこちらに残ることもまたGクラスの魅力だと思います。
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ロレックスのローマンインデックスの
デイトジャストのような
ところでこのMercedes-AMG G63を、江口さんの本業とも言える腕時計に例えると。
「そうですね、ローマンインデックス(ローマ数字)のロレックスのデイトジャストなんてどうでしょうか。しかもサイズは38mm。ブランドとしての信頼も社会的バリューも十分に持ち合わせていながら、長い歴史があり、道具としても優秀と呼べるのはやはりロレックスだと思うんです。ただ、そこにローマンインデックスと38mmという、今ではドレスウォッチとしてもカテゴライズできる仕様でエレガンスを漂わせる。まさにMercedes-AMG G63そのものじゃないないかな、と(笑)。そのうえでこれ見よがしなそぶりなど見せずに、当たり前にさらっと日常使いできるのが格好いいし、そういう接し方が時計もクルマも理想ですね」
Mercedes-AMG G63もロレックスのデイトジャストもクラス感のある実用品としてはおそらく最高峰の存在だろう。それをあくまでも“実用品としてさり気なく”というのが江口さんの審美眼の根底にあるスタイルだろう。
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G580 with EQ Technologyの誕生は道具の正常進化としても興味深い存在ですね
ところで、取材させていただいたタイミングはちょうどGクラスとして初のEVモデル、G580 with EQ Technologyが日本でも発売となった頃。G320オーナーとしてはもちろん、時計から洋服まで、ヴィンテージから最新モデルまでをスタイルとして提案している身として、この大きな一歩をどう見ているのか。
「子どもたちに持続可能な社会を渡す義務が僕たち世代にはある。そういう意味でクルマの電動化が不可避なのであれば当然素晴らしい流れだと思います。道具は、より強く、より正確に、より便利に、と常に進化する宿命にあるんですよね。その流れのなかに電動化があるのであれば、それは今までのモデルがそうであるように、自然な流れとも言えるでしょうし、どんなクルマになっているのかとても興味はあります」
一方で機械式時計を扱い、そこに価値を見出している江口さんならではの視点も。
「ただし、人間が直せるかどうかも大事。僕が扱っている腕時計はきちんと扱えば一生使えますし、長く使われていなくてもまた動かすことができます。そしてときには修理の過程も物語になる。僕にとっては人間がその手で治せるものであることが優秀な“道具”の条件です。デジタル技術がこの先どうなるのかは気になるところですね」
いずれにしてもG580 with EQ Technologyの存在は江口さんにとっても気になる存在であるようだ。そしてまた目の前のMercedes-AMG G63も、まったく角度を変えて未知の魅力を話してくれた。
「僕は“最終モデル”に惹かれるんですが、それはそのモデルや技術がもっとも熟成された状態にある製品だからなんです。ましてや現在はアナログ技術と(電動化も含めた)デジタル技術が拮坑した状態にあって、もしかしたら遠い未来から今を振り返った時、今こそが技術の転換期だったと思うかもしれない。とすれば、このMercedes-AMG G63はエンジンを搭載したゲレンデヴァーゲンの最終進化時代のモデルとして、いま以上の価値を持ち始めるかもしれませんね」
そのうえで自身のG320について。
「子どもたちにとってはジャングルジムです。屋根にも平気で登りますから(笑)。おかげであちこち傷だらけではあるんですが、それもまた家族の“道具”としていいのかな。でもMercedes-AMG G63でそれをやられてはちょっと困りますね(笑)」
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ECW SHOTO
2016年に吉祥寺にて「江口洋品店・江口時計店」として開業。2024年から渋谷区松濤にてECW SHOTOとしてリスタートする。時計、アパレル・ジュエリー、ヴィンテージを中心とした品揃えと、時計修理工房を併設。統一された世界観で「誰かの物語を引き継ぐのがヴィンテージの奥深さ」を表現する。来店時にはホームページの予約フォームからのご連絡を。
住所:〒150-0046 東京都渋谷区松濤一丁目28番6号VORT渋谷松濤residence
営業時間:11:00~19:00(火曜日定休)
電話:03-5422-3070
URL:https://eguchi-store.jp
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