INTERVIEW 入川ひでとさん(都市計画家)

Eクラスと街づくりに共通する「継承」というこだわり

2024年1月に日本市場に導入された、通算6代目となるメルセデス・ベンツ Eクラス(W214型)。Eクラスという名称が使われるようになってから31年。それ以前のW123型やW114型、W110型なども含めると、非常に長い歴史を持つモデルだ。メルセデス・ベンツの伝統を体現するモデルに、街づくりや地域ブランディングを担ってきた入川ひでと氏はどう見るのか。

  • 2024年09月12日
  • 文:高橋満
  • 撮影:阿部昌也
入川さんはプロデュースしたTHE WAREHOUSEに東急REIホテルを誘致し、同じく同施設にて食と遊びを担うTREX KAWASAKI RIVER CAFEと連携して滞在だけでなく仕事や遊びを楽しめる拠点を作り出している。

街づくりで忘れてはいけないことは
土地の記憶の継承

東京・羽田空港の対岸にある「キング スカイフロント」。神奈川県川崎市が進める都市再開発プロジェクトで、健康・医療・福祉や環境といった分野の企業が進出するオープンイノベーション拠点である。そのキングスカイフロント内にある商業施設「THE WAREHOUSE」をプロデュースした入川ひでとさん。入川さんは東急沿線の都市開発や「TSUTAYA TOKYO ROPPONGI」、「UT STORE HARAJUKU」などの店舗プロデュースを手掛けた都市計画の専門家だ。

入川さんが街づくりを手掛けるうえで大切にしていること。それは「土地の記憶の継承」。多くの都市計画がスクラップ・アンド・ビルドで、人々が長い時間かけて築き上げたものを簡単に壊し、新たな箱をポンとつくって記憶を上書きしてしまう。確かに見栄えはいいかもしれないが、伝統を軽んじた街づくりを繰り返していると、やがて人々が長年大切にしてきた習慣や日本人が本来持っている美徳も崩壊するだろう。

入川さんが考える街づくりの発想は、メルセデス・ベンツのクルマづくりの哲学にも通じるものがあるのではないか。メルセデス・ベンツのEクラスは、世界で累計1,600万台以上の販売台数を誇るメルセデスの中核をなすモデルであり、1946年に発表されたW136型以来、常に時代に先駆けて革新的な技術を採り入れ、世界のプレミアムセダンの指標とされてきた伝統的なモデルだ。伝統あるEクラスの最新モデルを街づくりの専門家はどう見るのか。

体を包み込んでくれる大きなシートやシート越しに見える風景は、歴代のEクラスから乗り換えても違和感なく馴染む。広いトランクスペースはセダンでも実用性の高さを感じさせる。

メルセデス・ベンツのクラスは
用途を明確にするためにあるのでは

「僕の中には走りを楽しむのはポルシェ、遊びに使うのはメルセデス・ベンツという明確な区分けがあります。だからメルセデス・ベンツといえばEクラスやその前のミディアムクラスのステーションワゴンのイメージが強いですね。父親からはメルセデス・ベンツはセダンで乗るものだと言われていましたが(笑)。僕より年下の人だとSUVとなるでしょうか。世代によってイメージが変わることに、歴史の長さを感じます」

W110、W111、W123……。入川さんはこれまでにさまざまなメルセデス・ベンツに乗ってきた。そんな入川さんがEクラスに感じる魅力。それはどれだけラグジュアリーなモデルになっても“実用性”を絶対に捨てないことだという。

「AクラスからSクラスまで、メルセデス・ベンツにはさまざまなモデルが用意されています。これをメルセデス・ベンツの中での位置づけとも捉えられますが、メルセデス・ベンツのクラス分けは、『用途を明確にしている』のだと思っています」

Eクラスは家族や仲間とクルマに乗り、必要な荷物をきちんと積んで出かけることができる実用性を持ったプレミアムカー。これはステーションワゴンだけでなくセダンでも変わらないし、クーペやカブリオレにも根付いた思想だと入川さんは話す。

サウンドシステムや最新の運転支援システム、MBUXなど、進化を止めないのもメルセデス・ベンツらしい部分だと入川さんは話す。その時代、時代でユーザーが求めるものをしっかり盛り込む。先進性の高さもEクラスの伝統だ。

ミディアムクラス時代からの高い実用性が
新型Eクラスにも継承されている

「実用性の高さを別の言葉で言い換えるなら、多様性です。多くの人が便利だと感じるようなサイズ感だったり、さまざまな機能をしっかり盛り込んでいるから、安心してEクラスを選ぶことができるのでしょう。メルセデス・ベンツはEクラスという名称が使われるようになったはるか前から頑なにこれを守り続けているから、モデルチェンジをしても多くの方に受け入れられるのだと思います」

伝統を軽んじた街づくりを続けているとやがて人々の習慣や美徳が崩壊してしまうように、クルマも時代によって価値観が変わっても最初の生い立ちを忘れてしまうと存在意義が薄れ、長く人々から選ばれるのは難しくなる。

今回新型Eクラスに試乗していただいた際、Uターンをするシーンで入川さんは「やっぱりEクラスですね」と笑った。大きなクルマなのにタイヤが大きく切れるから切り返さずに一度で曲がることができる。どれだけ進化しても、クルマの根幹となる部分はきちんと残す。これを半世紀以上も続けられることがメルセデス・ベンツの強みですよ、と話す。

「次世代のデザインと最新のデジタルテクノロジーを搭載した新型Eクラス。でも乗ってみるとメーカーの意志として変わらない部分がしっかり残っているのがわかりました。多機能で多様性に応えているのに、普遍的な存在であり続けるEクラスはもっともメルセデス・ベンツらしいモデルだと感じます。そういう部分が伝統を重んじる日本人の心に刺さるのだと、今回試乗してあらためて感じました」

Eクラスらしいラグジュアリーさもモデルチェンジを重ねるごとに進化している。伝統と革新の融合が多くのユーザーの安心感につながっている。

Eクラスは数十年後も
本質を見失わずに進化しているだろう

Eクラスの特徴として、新型モデルだけでなくクラシックなモデルも多くのファンがいることが挙げられる。入川さんも撮影中に「今、W114のいい出物があって、手に入れようか悩んでいるんですよ」と話していた。

「そんな僕でも新型モデルに乗るとすぐに体に馴染む感覚があります。これこそがEクラスの安心感ですね」

時代を超えて愛されるEクラス。果たして新型Eクラスも同じように数十年後もファンから愛されるモデルになるだろうか。それを入川さんに尋ねると、少し困ったような表情になる。

「それは僕にはわかりません。だって今のEクラスをクラシックカーで選ぶのは僕よりずっと若い世代ですから。僕らはクルマを通じてさまざまな遊びを知った世代。ドライブデートを存分に楽しんだし、そこに流れていた音楽を今でも聴いたりします。自分たちのライフスタイルを表現するためにクルマがあったし、当時のクルマに乗ることであの頃の自分に戻れたりします。でも今の若い人たちが自分たちと同じ価値観を持っているかはわからないですからね」

今の若い人たちが数十年後にこのEクラスをクラシックカーとして楽しんでいるかはわからない。でもその時代になっても家族や仲間とクルマに乗り、必要な荷物をきちんと積んで出かけることができる実用性という本質を捨てずに進化しているに違いない。メルセデス・ベンツは伝統を継承することの大切さを何より理解しているブランドだから。

今回の取材車両

Mercedes-Benz E-Class

メルセデス・ベンツの中核を担うモデル。2024年1月にセダンとステーションワゴンが日本市場に導入され、6代目のEクラスとなる。ガソリンモデルのE200アバンギャルドとE300エクスクルーシブ、ディーゼルモデルのE220dアバンギャルド、プラグインハイブリッドのE350eスポーツ エディションスターをラインナップ。

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