INTERVIEW 干場義雅さん(ファッションディレクター、『FORZA STYLE』編集長)

世の男たちが憧れるライフスタイルの象徴が
フェラーリなのだと思います

「イタリアって、とてつもなくかっこいい人がいっぱいいるんですよ」
発言の主は干場義雅さん。人気男性ライフスタイル誌「LEON」や「OCEANS」などの創刊に関わり、現在はウェブマガジン『FORZA STYLE』の編集長を務める。またファッションディレクターとしても数々のファッションブランドを監修するなどその活動は多岐に渡る。そんなキャリアを通じて培った、魅力あふれるイタリア人たちとの交流は、自身の人生観にも大きく影響しているという。そんな干場さんから見たフェラーリとは。

  • 2025年04月17日
  • 構成・文:前田陽一郎
  • 写真:高柳健
インタビュー場所となった『ヤナセ フィオラーノ モトーリ』のデリバリーエリアで干場さんを出迎えたのはオドメーター7,800km弱の極上のF8スパイダー

イタリアはとてつもなくかっこいい男の国

干場さんがイタリアに興味を持つようになったきっかけは、18歳の頃。雑誌の中で見た一枚の写真からだったそうだ。
「アルバイトをしていたセレクトショップの休憩室で、なにげなく眺めていた洋雑誌の広告に衝撃を受けたのがイタリアに興味を抱くようになったきっかけです。それはアルマーニの広告でした。アルド・ファライという写真家の撮ったモノクロの写真。もちろん当時はアルマーニもよくわかりませんでしたし、アルド・ファライのことも知りませんでした。ただ、その広告に写った、オールバックに無精髭を生やし、セル巻きの繊細な眼鏡をかけて、ソフトなスーツを着た知的な男性のスタイルに、”自分の知らない圧倒的な大人の男のかっこいい世界”を感じたんです」
以降、映画、音楽、ファッション、食、お酒、船旅と、あらゆる角度からイタリア文化を吸収し、その本質に迫ろうとした。
「シチリアを舞台にした『ゴッドファーザー』3部作はいまでも大好きな映画のひとつです。トスカーナの風景が美しい、ベルナルド・ベルトリッチ監督の『魅せられて』、ベニスが舞台の『旅情』、ロベルト・ベニーニの『ライフ・イズ・ビューティフル』なんて何回号泣したかわかりません(笑)。ファッションでは、ジョルジオ アルマーニ、ドルチェ&ガッバーナに影響を受けたことはもちろん、スタートしたばかりのPRADA UOMOやトム・フォード時代のグッチ、当時のロメオ・ジリやコスチューム・オムなんかもかっこよかったですね」

あらゆる角度からF8スパイダーを観察しながら「一見複雑なラインに見えますが、機能のためのラインに絞り込んだ“引き算”のデザインが美しい!とのこと

イタリアの美意識の真髄「引き算」と「用の美」

「ファッションの視点で見れば、イタリアのデザインは足し算ではなく、引き算です。余計なものを削ぎ落とすことで、本質的な美しさを際立たせようとしているように僕には見えます。それはおそらく、建築、料理、インテリア、そして車にも共通する考え方なんじゃないでしょうか」

確かにフェラーリの魅力を語る時にしばしば用いられるのがピニンファリーナ。そして現在のフラビオ・マンゾーニ率いるフェラーリ・スタイリングセンターの思想。フェラーリのデザインは、常に早く、美しく走るための緻密なラインの集積でなければならないということだ。その考え方は同時に「用の美」へとつながる。

「イタリアメイドの真髄は、ただ美しいだけではないんですね。使えて、生活を豊かにして、初めて美しいと言える。機能美、実用性、それがイタリアの美学の根底にあるんです。たとえばイタリアのスーツ、とくに南イタリアのスーツは着用した時の快適性を重視して、パターンはもちろんのこと、手作業による縫製の際に”伸びシロ”を設けます。強く、テンションをかけて縫う部分と、ゆるく縫う部分を変えるんです。そうすることで、デザインを犠牲にすることなく、身体に沿うような着心地を手にできる。同じようにこのF8スパイダーにも引き算と用の美を感じることが出来ます」

納車時に購入車両と対面するために設けられたデリバリーエリアにも、フェラーリの世界観を共有するためのモニターやスツールが用意される。店舗にはほかにもコンサルティングルームやラウンジエリアを用意している

敬愛する男たちが作ったブランドがつまらないはずがない

「エンツォ・フェラーリさんはもちろん、稀代のファッショニスタであり、プレイボーイでもあったフィアット元会長のジャンニ・アニエッリさん、経済界の重鎮としてクラシックなスーツの着こなしが美しいルカ・ディ・モンテゼーモロさん、モンテゼーモロさんの親友であり、ドライビングシューズなどをつくるトッズの会長ディエゴ・デッラ・ヴァッレさん。皆さん、住まい、仕事、インテリア、食、ファッション、そして、車……。人生の全てにおいて、最高のものや人に囲まれ、自分のこだわりを貫ける人たち。人生を全力で楽しんでいる僕の敬愛する方々です。そんな魅力的な人たちがフェラーリで繋がっていると言う事実。フェラーリは上質を知り尽くした人たちが作り上げたブランドとも言えますよね」
富も名声も美的センスまで持ち合わせた男たちが作るブランドがつまらないわけがない、と干場さん。
「エンツォ・フェラーリさんは、『美しいものは、およそ早い』と言ったそうです。フェラーリは、イタリアの享楽と美の結晶。五感を刺激し、所有する喜びを与えてくれる存在かもしれません」

ラウンジエリアでインタビュー。文中にも書いた完璧なスタイリングに加え、ご本人曰く「じつは車両に合わせたボルドーのホーズ(ロングソックス)がポイントです」とのこと

本当に良いものは技術へのリスペクトで決まると思う

「イタリアのモノ作りは、常に”人”が中心にあります。企業であれば、モノを作る人たち、なかでも熟練工や職人と呼ばれる人たちをリスペクトし、彼らが最高のパフォーマンスを発揮できる環境を整える。それが結果として、長く愛される、本当に良いモノ作りに繋がることを知っているんですね。たとえば、最高級カシミアを用いたカジュアルウエアで知られるブルネロ クチネリは、従業員のために図書館をつくり、劇場をつくりました。世界最高峰のスーツをつくるキートンの経営陣の昼食は、そこで働く全従業員、特に職人たちが食べ終えてからでないとはじまりません。スーツ生地で有名なゼニアは、社員の子供が生まれると、オアジゼニアの森に子供の名前をつけて植林をします。どのエピソードにも働く人たちへのリスペクトを感じざるを得ませんよね。以前、モデナのフェラーリのファクトリーの写真を拝見したことがあるんですが、エンジンの組み立て棟のなかに鬱蒼と植物が茂っているのをみて驚きました。いまでこそ緑化率なんていう言葉もありますが、もう10年以上も前から、緑のある労働環境を作っていたフェラーリも、 “人中心”のブランドであることを確信しました」

文中に加えて、ネクタイもカシミアのアルコディオ、チーフはムンガイ、シューズはジョンロブと、世界の一流品が並ぶ

フェラーリに乗る資格と55歳の目標

インタビューは2024年4月に新宿に誕生した『ヤナセ フィオラーノ モトーリ』で行った。事前に干場さんから質問されたのは「一緒に写る車両の色は何色ですか」という一点。
「せっかく世界最高峰の美しい車、フェラーリと一緒に写るのですから、その車両の魅力を引き立てるスタイリングでいたいじゃないですか(笑) 結局、冒頭でもお話ししたような”引き算”と”用の美”のある普遍的でクラシックなイタリアンスタイルに落ち着きました」
ネイビーのジャケットは、ロロ・ピアーナの最高級のスパンデックスカシミアの生地を使い、南イタリアの老舗サルト(仕立て屋)で知られるサルトリア・ピロッティで仕立てたもの。グレーフランネル生地のパンツも同じくピロッツィで仕立てたものだそう。加えてサックスブルーのシャツはフィナモレ。サングラスはペルソール。
「どれもイタリアを代表する素晴らしいブランドです。ジャケット、パンツ、シューズの配色は、ネイビー、ミディアムグレー、ブラウンでまとめ、ベーシックなイタリアンスタイル、サングラスはエンツォさんを意識しました(笑)」
干場さんは、自身が55歳になった時、フェラーリが真に似合うような男になっていたいと言う。
「ファッションを突き詰めていくと、何を着るかではなく、誰が着るかに到達します。着る人やその人自身の中身が問われるんです。着る人に様々な経験から生まれる威厳や余裕、優雅さ、人を助けることが出来る優しさが備わっていたら、極端な話、なんてことない白いTシャツにブルージーンズ姿であってもオーラを放ちます。それはファッションだけでなく、他のことでも同じこと。フェラーリも同じです。フェラーリに乗っているのではなく、乗せられているように見えるようでは、まだまだ駄目。フェラーリに乗るには、ある種の資格が必要だと思うんです。それは、経済的なゆとりもそうですが、年齢、経験、知識に加えて、その時点でどれだけ人生を楽しめでいるかも資格のひとつです。それらが滲み出るようになって威厳が生まれ、はじめて、フェラーリと対峙できるんだと思うんです」

誰もが知っているのに誰もが乗れるわけじゃない

干場さんにとってフェラーリは、単なるカーブランドではない。イタリアの文化、美学、人生哲学……。その全てが凝縮された、理想の人生の象徴だ。
「フェラーリは、マス(大衆)とハイエンドを両立させている稀有なブランド。誰もが知っているのに、誰もが簡単に手に入れられるわけではない。その絶妙なバランス感覚をして、常に”憧れ”であり続けることは本当に素晴らしいと思います」

そして、フェラーリの未来に、こう期待を寄せる。
「フェラーリにはこれからも、イタリアの美学、人生哲学を体現し続けてほしいですね。そして、世界中の人々を魅了し、憧れの存在であり続けてほしい。55歳を迎えた時に、ぜひ自分の鍵を手に入れたいですから」

ヤナセ フィオラーノ モトーリ

東京都内3店舗目のフェラーリディーラーとして、2024年4月27日にグランドオープン。フェラーリの最新CIを採用したショウルームはフェラーリの優雅な世界観を表現しており、ゆとりある空間は最大3台の車両展示が可能だ。ほか、ゆったりとしたラウンジエリアとコンサルティングルーム、仕様を選ぶコンフィグレーションエリアに加え、購入車両と対面の場所となるデリバリーエリアで構成される。

住所:東京都新宿区中落合2-27-14
営業時間:火曜日~金曜日・祝10:00~17:00/土・日10:00~18:00
定休日:毎週月曜日、第2火曜日
電話:03-3565-6244
URL:https://tokyo-yanase.ferraridealers.com/

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