INTERVIEW アクタガワタカトシさん(クリエイティブディレクター)
脈々と受け継がれてきた血統が、
メルセデス・ベンツの最大の魅力です
ナイキには過去の製品を研究・分析するための巨大なアーカイブルームがあるそう。そのアーカイブルームに自身が所有していたナイキのスニーカーのコレクション、150足以上が保管されている。コレクションの主はスニーカーのコレクターとして世界でも知られる、アクタガワタカトシさん。クリエイターとしての活動も盛んで、インターネット黎明期にメルセデス・ベンツのコミュニティサイトを立ち上げるなど、深くメルセデス・ベンツとも関わってきた。はじめて所有したメルセデス・ベンツは86年式の107SL。そんなアクタガワさんにとってメルセデス・ベンツとは。
- 2025年07月17日
- 構成・文:前田陽一郎(SHIRO)
- 写真:高柳健



自分が楽しいと思えるものが
うまく仕事に繋がっているだけ
ナイキ本社に自身の所有していたスニーカーが保管されていることから伺うと。
「はい、150足ほど。2005年にナイキ本社のアーカイブ担当からオファーがあって。今ではオークションに出せば数千万円の値がつくようなモデルも入っています」。僕のコレクションがアーカイブルームに到着した日、創業者のフィル・ナイトさんがわざわざ見学にきたそうです。それはちょっと誇らしかったですね」。
アクタガワさんのプロフィールをウィキペディアなどで閲覧すると、その活動範囲はスニーカーの収集はもちろんのこと、編集者として各種メディアのエディトリアルに関わり、アウトドア製品のプロデュース、ファッション誌への寄稿など多岐に渡ることがわかる。近年は80年代のラジコンカーへの興味が加わり、今後商品開発からアパレル展開も考えているようだ。
「どれもビジネスを前提にしたり、時流を意識して、はじめたり集めたりというのはないですね。単純に自分が興味をもって楽しいと思えるものがうまく仕事に繋がっているだけです」。
とはいえ、それぞれのジャンルの歴史や製品、技術に、その時々の社会情勢、文化的背景などまでを掘り起こしていく探究心の強さもすごい。自宅の一室を占有した事務所の棚にはアウトドア製品、なかでもランタンやデイパックがぎっしりと詰め込まれ、そのあいだに最近加わりつつあるヴィンテージのラジコンの本体やパーツ、資料となる当時の雑誌などが侵入しつつある。


カジュアルにメルセデス・ベンツに乗るって格好いい
その深い洞察力と探究心から幅広いジャンルに精通するアクタガワさんのメルセデス・ベンツとの関係が気になる。
「はじめて所有したメルセデスは86年式の107SLでした。いまから30年ほど前のことです。どうしても乗りたかったとか、憧れていたわけでもないんです。むしろその当時は60年代のアメ車が気になっていました。いまでもそうですが、基本的に興味の源泉が60~70年代のアメリカンカルチャーにあるんですね、だから当たり前のようにアメ車にも興味を持つわけですが、フリーランスとして仕事でも使うことを考えると故障の不安がないわけでもなくて。そんなときに街でSLを見かけて、そのときの印象がとてもいい感じだったんです。アメカジでアメ車に乗るのもステレオタイプだよな、という気持ちもありましたし、ファッション業界でもメルセデスをあえてカジュアルに乗るスタイルが芽吹いてきた頃でもありました。さらに、亡くなった父親がずっと乗りたいと言っていていたのがSLだったというのも手伝いました。なにより、製造から10年以上が経過していることもあって、当時は20代の自分でもなんとか手に入れられる程度の値段で手にれられたということも大きかったですね」
それからほどなくして日本で初めてのメルセデス・ベンツ所有者のためのコミュニティサイト、『MB-NET』を立ち上げることに。


情報収集の目的でコミュニティサイトを作ろう、
というのがはじまり
「SLを手に入れたはいいけど、あまりいい状態ではなかったんです。修理の見積もりのたびに驚くわけですよ。手頃な価格で手に入れたとはいえ、パーツ代や工賃はメルセデスのそれなわけで、20代半ばの自分としては相当高価ですから。となると可能な限り自分でやるしかないじゃないですか。でも当時は紙媒体にしか情報はありませんでしたし、整備マニュアルを手に入れることも、ましてや信頼できる中古パーツを手に入れることなんて、たいへんな時代でした。そこで情報収集の目的でコミュニティサイトを作ろう、というのがMB-NET立ち上げの理由です。幸い、小学生の頃からプログラムを書くくらいパソコンは好きだったので、自分で制作、管理、運営とやっていました。あっという間に大きなコミュニティになり、イベントなど開くと最初は10台くらいだったのが50台になり、100台になり、200台以上が集まるほどに大きくなりました」。
それはそれで楽しかった、というアクタガワさんだが、「結局ある時期から自分の役割はもう終わった」と感じるようになって、MB-NETの権利を譲渡、結果現在のようなパーツショップへと変遷している。



メルセデスでしか味わえなかった上質感のその先
86年式のSL以降に所有してきたのはW123(280E)、W124(E320)、W108(280SE)、W163(ML320)、W463(G500)。107SLは87年式を買い直し、現在も所有しているそうだが、同居の母親のメルセデスも加えるとまだ数台が加わるそうだ。
今回、メルセデス・ベンツ芝浦ショウルームがアクタガワさんの試乗のために用意したのは2024年式のメルセデスAMG GLC 63 S E PERFORMANCE。プラグインハイブリッドシステムを搭載し、2.0L直列4気筒ターボエンジンに電動モーターを組み合わせ、システム合計で680馬力を発揮する。0-100km/h加速はわずか3.5秒。さらにAMG特有の4MATIC+四輪駆動システムと電子制御サスペンションにより、直線だけでなくコーナリングでも高い安定性を誇る。「確かにすごくいいんですよね、インフォテイメントのグラフィック処理も上手いし。けれども、メルセデスでしか味わえなかった上質感や技術力のようなものが、世界中のすべての自動車メーカーのクオリティが底上げされることで、当たり前になってしまいましたよね。まして電気的な制御に関しては技術そのものが日進月歩で、どこで評価していいのかわからないというのは正直なところです」。
乗りたいモデルが多すぎて、まったく時間が足りません
ではアクタガワさんはメルセデス・ベンツのどこに魅力を感じているのだろうか。
「メルセデス・ベンツにしかないもの、それはどこに置いても、一目置かれる存在であることでしょう。メルセデスは上質な車であると同時に、徹底的に実用車でもある。だからメルセデスは似合わない場所がないんです。モデルもグレードも問いません。たとえばこのメルセデスAMG GLC 63 S E PERFORMANCEで東京の一流ホテルのエントランスに横付けしても、星空の下でキャンプをしてもどちらも絵になることは想像に難くないでしょ。それって縦目の108の頃から変わらないんですよね。それはもはや、馬に例えるならば血統なんです。脈々と受け継がれてきた血統が、メルセデス・ベンツの最大の魅力だと思います。それだけに大切なのは乗る側の意識でしょうか。先ほども話したように、アメリカンカジュアルでアメリカ車に乗るのはいいけど、それはファッションじゃない。クルマもファッションの一部と考えたとき、どんなファッションで、どう乗るか、そのメルセデスに自分が似合っているか、どんなスタイルで乗るのかが重要だと思うんです」。
ではいま乗りたいモデルは、と問いかけると、「まだまだあって困っています。運転ができる年齢を考えるとまったく時間が足りないくらい」の答えが。アクタガワさんのメルセデスライフは終わることがなさそうだ。
