INTERVIEW 中野光章さん(Stormy Mountain Ltd. 取締役 / Goyo Galleryプロデューサー)
人と時を分かち合う、
最上の“おもてなし”を体現する一台
スペシャリティストア「バーニーズ ニューヨーク」の名物PRマネージャーとして、約30年にわたり日本のファッションシーンの熱気を肌で感じ、時代の移り変わりを見てきた中野光章さん。現在はその審美眼をアートの世界にも広げ、ギャラリーのプロデュースやフリーランスのPRとして、新たな価値を世に問い続けている。その活動の根底には常に、人と人との出会いや、そこから生まれる体験を豊かにしたいという想いが流れている。
そんな中野さんに今回試乗をお願いしたのは、メルセデス・ベンツ Vクラスの最上級モデル「V 220 d AVANTGARDE long Platinum Suite」。それは後席に座るゲストのために設えられた一台だ。中野さんにとってメルセデスが突き詰めた「おもてなしの空間」は、どのように映るのだろうか。
- 2025年11月20日
- 構成・文:前田陽一郎(SHIRO)
- 写真:高柳健




ファッションからアートへ。
時代と人を繋いできた審美眼
「1996年にバーニーズに入社した頃は、まさに90年代後半のメンズデザイナーズファッションが花開いた時代でした。メンズがスタートしたプラダやトム・フォードによるグッチ、ジル・サンダー、マルタン・マルジェラ……。新宿店のデザイナーズフロアの店頭に立ち、熱狂の渦の中で、本当にたくさんの人々と出会いました。その経験が今の自分を作っていることは間違いありません」。
中野さんのキャリアは、ただモノを売る、紹介するというところに留まらず、モノを介して人と出会い、カルチャーを育む営みそのものだったそうだ。そんな中野さんが新たなステージとしてアートの世界を選んだのは、コロナ禍における価値観の変化が大きなきっかけだったという。
「ファッションのあり方が劇的に変わりました。誰もが家で快適に過ごすことを求めるようになり、住空間にお金をかけるようになった。家具やインテリア、そしてアートは、暮らしを本当に豊かにしてくれる。もともと現代美術が好きで、作品を少しずつ購入していたこともあり、アートが持つ“体験価値”の重要性を再認識したんです」。
長年勤めたバーニーズ ニューヨークとの関係は続けながら、現在は天王洲のアートギャラリー「Goyo Gallery」のプロデューサーを務める。そこでの役割は、作品の紹介に留まらず、作家の背景や文脈を丁寧に紐解き、コレクターへと繋ぎ、その価値を未来へと守り育てていくことだそうだ。



後席の扉が開くと、
そこは“移動する茶室”だった
中野さんにはあえて運転席ではなく、上質なナッパレザーに包まれた2座の独立したエクスクルーシブシートで試乗いただいた。
「これは……すごいですね。後部座席に座る人のための空間だということが、乗った瞬間に理解できます。運転席からの景色とはまったく違う、守られているような安心感と、どこまでもリラックスできる空気感はまるでラグジュアリーホテルのラウンジにいるようです」。
走り出すと、その印象はさらに深まる。AIRMATICサスペンションが路面の凹凸をしなやかに吸収し、車内は驚くほど静かだ。ディーゼルエンジン特有の音や振動はほとんど伝わってこない。フロントシートの背面に格納されたトレーを引き出すと、その滑らかな動作感に高級家具を連想する。
「50代になって茶道を習い始めたんです」。きっかけは、仕事のパートナーであり、著名な茶人・木村宗慎氏の弟でもあるギャラリーオーナーとの出会いだった。
「茶道の世界では『市中の山居』という言葉があります。都会の喧騒の中にありながら、一歩茶室に入れば、そこは静寂な山の庵である、と。四畳半の限られた空間に、掛け軸や花を設え、亭主が客人のために心を尽くす。空間全体で世界観を伝え、いかにその時間を楽しんでもらうかという“おもてなし”の精神が凝縮されています。このVクラスの後席は、まさに“移動する茶室”のような空間ですね」。



スイッチの感触ひとつに宿る、
ブランドの哲学
シートの調整スイッチや、テーブルを出し入れする機構のひとつひとつに触れると、滑らかに動くパーツ類の丹念な作り込みに、深く感心した様子だ。
「こういう細やかな部分にこそ、ブランドの哲学が宿りますよね。例えば、洋服のボタンホールの仕上げや、ジャケットの内ポケットの作り込み。普段は見えない部分や、意識しない部分にどれだけ手間をかけられるかで、そのブランドの本質的な価値が決まるのだと思います。この車のスイッチの押し心地や、テーブルが収納されるときの動きのスムーズさは、まさにそうした世界です」。
メルセデス・ベンツは100年以上にわたり、自動車業界のトップランナーであり続けてきた。その理由は、揺るぎないブランド哲学の継承と、それを時代に合わせて進化させる「新陳代謝」にあるのではないか、と中野さんは考察する。
「長く愛されるブランドには、必ず語るべきストーリーがあります。僕が長年勤めたバーニーズ ニューヨークもそうでした。お客様は『ドアマンにエントランスのドアを開けてもらう時の高揚感が好きだった』とか『初めてスーツを仕立てたときの感動が忘れられない』といったように、ご自身の体験と重ねてブランドを語ってくれる。それは、商品そのものの魅力だけでなく、空間や人、サービスを含めたすべてが“体験価値”となっているからです」。
メルセデスもまた、ショウルームでの体験から、日々のドライブ、そしてドアを閉める際の重厚な音に至るまで、所有するプロセスすべてがブランド価値を形成している。



トレンドとの幸福な関係性が、
普遍的な価値を生む
ファッションの世界は、トレンドという波の連続だ。その中で中野さんは、自分なりのスタイルを貫いてきた。
「もちろん、毎シーズンのコレクションにはワクワクしますし、新しいものは大好きです。でも、ただトレンドを追いかけるだけでは、自分のスタイルを見失ってしまいます。大切なのは、自分の中に “軸”を持つこと。その上で、サイズ感を変えてみたり、色合わせを工夫したりして今の空気感を少しだけ取り入れる。トレンドと仲良くなればよいのです」。
頑なに自分のスタイルを守るだけでも、ミーハーに流行を追うだけでもない。軸を持ちながら、変化を恐れず柔軟に楽しむ。その姿勢こそが、時代を超えて輝き続けるパーソナルなスタイルを築き上げる。中野さんは、メルセデスの車作りにも同じ姿勢を見るという。
「メルセデスには、安全思想や品質といった、絶対に変わらない軸がある一方で、かつてAクラスのための長編アニメーションを制作するなど、新しいマーケットへもアプローチする柔軟性も持ち合わせているんですよね。その両輪があるからこそ、古びることなく、常に新しい世代からも愛される存在でいられるのだと思います」。



この一台が紡ぐ、人と人との豊かな時間
「僕にとってこれは“人と楽しむための車”です。自分で運転する喜びよりも、大切な仲間やゲストをこのシートに乗せて、移動の時間をどうすればもっと楽しんでもらえるだろうか、と考えることに喜びを見出す車ですね」。
ファッション、アート、そして茶道。中野さんが探求してきた世界は、突き詰めれば「人をもてなし、豊かな時間を共有する」という一点に繋がっているのかもしれない。Vクラス プラチナスイートは、移動手段としてだけでなく、自らのフィロソフィーを実践するための最上のパートナーとなり得る存在だ。
「守られているような安心感の中で、リラックスして語り合ったり、窓の外の景色を眺めたり、あるいは静かに音楽に耳を傾けたり……。目的地に着くまでの時間そのものが、かけがえのない思い出になる。この車が提供してくれるのは、そういう次元の体験価値なのだと思います。これ以上のおもてなしは、なかなかないでしょうね」。
時代の目利きが認めた、メルセデス・ベンツが創造した至高の空間。それは、人と人とが過ごす時間を、どこまでも豊かで上質なものへと昇華させるための、現代における最も洗練された“おもてなし”のひとつかもしれない。


Goyo Gallery/ゴヨウギャラリー
「Goyo Gallery」は、代表の木村賢次郎氏の審美眼で選んだ現代アーティストを紹介するギャラリー。作家に深く寄り添う姿勢がアートファンやファッション業界から厚い信頼を得ている。国内外のギャラリーと連携し所属作家の海外展開を支援するほか、他業界のアート企画にも参画。現代アートと社会の接点を広げる役割を担っている。2025年4月に東京・天王洲「TERRADA ART COMPLEX II」に移転オープン。ギャラリーとしての表現力が大幅に強化され、今後の展示にも期待が高まる。
住所:〒140-0002 東京都品川区東品川1-32-8
TERRADA ART COMPLEXⅡ 3F
営業時間:12:00~19:00(月曜日休館)
電話:03-6260-2554
URL:https://goyogallery.jp



