INTERVIEW 橋爪悠也さん(現代アーティスト)
「こだわらない」自分の、メルセデスへの「こだわり」
大きな瞳の少女が印象的な作品「eyewater」シリーズで知られる現代アーティスト、橋爪悠也さん。昭和の漫画文化やアニメーションへのオマージュから生まれたポップアートは、大量生産と芸術性の境界を軽やかに越境し、国内外で高い評価を受けている。ジェネラリストを自認し、「こだわらないことにこだわる」というパラドキシカルな姿勢を貫く橋爪さんに、今回試乗してもらったのはメルセデス・ベンツGLA 200 d 4MATIC Urban Stars。コンパクトSUVという新たなメルセデスの提案は、マーケターとアーティスト、ふたつの視点からどう映ったのだろうか。
- 2025年12月25日
- 構成・文:前田陽一郎(SHIRO)
- 写真:高柳健




メルセデスに対する複雑な思い
「幼い頃から父親には何かにつけ<分相応でありなさい>と言われてきたんです。ことクルマに関してはそうだったような気がして。だから、僕にとってメルセデスのドアから降りてくる人には“厚み”がないといけないと思ってましたし、その厚みが自分にあるかという自問に対しては“ない”という認識だったんです」。
橋爪さんにとってメルセデス・ベンツは、昔も今も、圧倒的にラグジュアリーマーケットを牽引する象徴的存在だ。その重みは、若いアーティストにとって憧れであると同時に、距離を感じさせる存在でもあったという。
「アートでも食べていける、と見せるのは、アートで食べられるようになった者の役目だと思うんです。そういう意味では、メルセデスに乗る資格がかつてよりはあるように思います。でも、なら乗るか、と言われると、自分にはブランドイメージが強すぎる気もする。肯定とも否定ともつかない自分のなかで、ちょうどいい、が見えないんです」。
現在はアメリカ製のEVを愛車とする橋爪さんだが、積極的に選んだわけではなく、人に誘われるがままに購入したという。そしてその選択には橋爪さんらしさが表れている。
「新しいものが好きなんです。一番先頭で何が起こっているかがいつも気になる。今所有しているEVもそうです。存在自体がさらっとしていて、車というよりもガジェットに近い。ガジェットは新しいものほど価値があり、それは車の歴史やストーリーという価値とは全く違うものです」。



予想を裏切る「軽さ」という新たな価値観
今回試乗したGLA 200 d 4MATIC Urban Starsは、メルセデス・ベンツのコンパクトSUVセグメントを担うモデル。全長4,445mm、全幅1,850mm、全高1,605mmという扱いやすいサイズに、1,949cc直列4気筒ディーゼルターボエンジンを搭載。最高出力150ps、最大トルク320N・mを発揮し、8速DCTとの組み合わせで軽快な走りを実現している。
「GLA 200 d 4MATIC Urban Starsの軽さに驚きました。メルセデスは常に重くてどっしりとした存在だと思っていたから。軽さと言えば、ディーゼルということもあるのか、走りだしも軽い。なのに、身長190cmの自分が乗って非力さや窮屈さを感じないなんて、よくできてますね」。
橋爪さんが感じた「軽さ」は、単なる車重やハンドリングの話ではない。それは、メルセデスが持つブランドの重みを、現代的な感覚で再解釈した結果だった。
「後ろからのルックスは本当に格好いいと思います。自分の好みからするとスリーポインテッドスターの主張が強すぎるけど、そこは軽さとの相殺かもしれませんね。みんながGクラスに憧れるのはわかるけど、だからといって自分が乗ろうとは思わないんです。天邪鬼な自分には、あえてGLAのようなモデルのほうが自分らしいのかもしれません」。



「こだわらないことへのこだわり」と、
矛盾の中で見つけた面白さ
橋爪さんの創作活動と生き方には、一貫して「こだわらないことへのこだわり」という主義のようなものが流れている。それは、ポップアートという表現手法にも通じる姿勢だ。
「『eyewater』も同じです。大量生産されることの面白さ。だから1枚1枚にタイトルはなくて、ナンバーのような作品タイトルにしている。メルセデスは工業製品だから大量生産されるのに、物語性があることで、ラグジュアリーセグメントの代表的存在になっている。そのあり方が面白い」。
こうした矛盾への興味は、最近始めた渓流釣りにも見てとれるという。
「これも父親の影響なんですが、ふと思い立って思い切り深いところまで突き詰めてみようとはじめたのが渓流釣りです。ご存じの方には共感いただけると思いますけど、とにかくこだわりはじめるとその深度がすごい。道具の値段も天井知らずに高い。でも、だからこそ、面白いと感じるんです。ところが若いアシスタントたちからすると、成功をお金やモノで例えたり、ブランドと呼ばれるものを手にすること自体“古い”と言われる。でも僕自身は、こだわることもこだわらないことも否定できない。やっぱり自分はどこまでもジェネラリストなんだと思います」。



車の未来と、変わりゆく価値観の中で
「エンジンや型式にこだわりはないけど、格好いいクルマに乗りたいと思う最後の世代なのかもしれません。だからこそ、クルマがモビリティじゃなく、クルマとして魅力的な存在として居られるいま、クルマを楽しみたいとは思いますね」。
橋爪さんの言葉には、自動車産業が大きな転換期を迎えている現在への冷静な視点がある。電動化、自動運転、シェアリングエコノミーなど、車を取り巻く環境は急速に変化している。その中で、GLAのようなコンパクトディーゼルSUVは、従来の価値観と新しい価値観の架け橋となる存在かもしれない。
「アトリエ作業が大半で、個展などの時や海外発送の時は運搬屋さんが運んでくれるから、それほど大きい車は必要ないです。むしろ僕の荷物の大半は釣り道具ですから、釣り道具を保管して運べるだけの大きさがあれば十分。GLAはそういう意味でも“ちょうどいい”サイズです」。
実用性という観点でも、橋爪さんのライフスタイルにフィットしそうだ。ラゲッジ容量は通常時で427L、後席を倒せば1,422Lまで拡大。釣り道具から画材道具まで、アーティストとしての多様な活動を支える十分な積載性を備えている。



物語を知り、その一部になることの喜び
「自動車というものを発明したのがメルセデス・ベンツだと、今日初めて知りました!そんなことすら知らないでメルセデスに試乗するな、って感じですけど、その壮大なストーリーの一部になれるなんて最高ですね」。
1886年にカール・ベンツが世界初の実用的な自動車を発明してから約140年。その歴史の重みを知った橋爪さんは、素直な驚きと喜びを隠さない。
「僕が結局ジェネラリストになっちゃうのは、いろんな物語を知りたい、でも多くは語りたくなくて、密かに納得していたいんです。大量生産の良さも、手仕事の良さも肯定したい。SNSの発達から、専門知識や技能を持っている方がリスペクトされて、広く浅いことが否定されがちな風潮がある。でも僕は、その両方の価値を認めたい」。
試乗を終えた橋爪さんは、新たな発見を楽しんでくれた。
「こうして試乗させてもらって、まったく違うメルセデス・ベンツの今を知りました。さっそくディーラーに行って、資料もらってきます(笑)。でも、正直に言えば、ディーラーで見てみたいのは、自分では手が出ないモデル。無理してでも乗ってみたら、また違う一面が見えてくるかも」。
こだわらないことにこだわり、矛盾を楽しみ、新しいものと古いものの両方に価値を見出す。そしてGLA 200 d 4MATIC Urban Starsという一台は、メルセデス・ベンツもまた、時代に合わせて軽やかに変化し続けていることを証明した。




