INTERVIEW 持田慎司さん(編集者)
家族を運ぶ“道具”、気分まで整えてくれる存在
フリーランスの編集者として大手セレクトショップのカタログや有名老舗ホテルのウェブサイトのクリエイティブディレクションなど幅広く活動する持田慎司さんの言葉は、常に生活の手触りに根ざしていながら、編集者らしい分解と再構築を伴っている。
持田さんが所有するのはメルセデス・ベンツのGクラス、G350 BlueTEC 35th Anniversary Edition(2014年モデル)。持田さんはこの一台を、「自分と家族を安全に運ぶための道具」でありながら、「忙しない毎日の中で、自分のご機嫌を取るための相棒」と評する。
- 2026年01月23日
- 構成・文:前田陽一郎
- 写真:高柳健




いつかは乗りたい、記憶の中の原風景
「クルマ好きの父親の影響は大きかったと思います。幼な心に、軽快なスポーツカーとタフな4躯を使い分けて楽しむカーライフみたいなものを、“かっこいい”って思っていました」。
クルマそのものというより、「そういう大人ってかっこいい」という感覚。持田さんが語る“原風景”は、車種名より先に、生活の佇まいとして立ち上がってくるようだ。
「流線型の綺麗な感じと、カクカクした軍用車っぽい感じ。両極のスタイルを2つ、ちゃんと持てることが自分にとっての大人であり、豊かさだったんですね。やがてそのイメージは、いつか乗りたい車としてダイムラーのW6か、メルセデスのGクラスに変遷していきました」。
学生時代にはじめて所有したのは、シトロエンZXだった。「10万円だったか、とにかく安価に知人から譲ってもらいました。すぐ壊れちゃったんですけど」。その後出版社に就職してからは、しばらくクルマのない時期も挟む。ただ、周囲には“いいクルマに乗る大人”がいて、そんな先輩たちからも少なからず影響を受けていたそう。「やっぱり大人になったら車が欲しいとはずっと思っていましたね」。


まずは「若い頃しか乗れない車」。
そして二台持ちへ
転機は務めていた出版社を辞め、フリーランスの道を模索していた頃。「若い頃しか乗れない車を買おうと思って」買ったW123が、持田さんにとっての“セカンド・カーライフ”の入口になった。
しばらくして、Gクラスのショートボディ(G500ショート)を手に入れて、“二台持ち”となると、憧れのカーライフ像にぐっと近づいた気がした。「4ドアと2ドア。滑らかさと力強さ。キャラクターはまったく違いますが、ともに時代を越える名車を所有することはとても贅沢な体験でしたね」と振り返る。
「G500はコンパクトなボディに、大きなエンジンの組み合わせもあり、走り出しも速くてキビキビ走ってくれる印象でした。駐車スペースも困らないし、自分にとって理想的な一台でした」。
ただ、最初の“二台持ち”はマンション住まいだったこともあり、引っ越しを機にした駐車場事情の変化により状況が一変。結果、W123を手放すことになる。さらに“家族”という要素によって、カーライフは形を変えていく。
「3人目の子供が生まれて、いよいよ2枚(2ドア)のG500だと、乗り降りが大変になってきました」。
クルマの評価軸が、明確に“家族の時間”へ寄っていく瞬間だ。ここで持田さんは、スポーツカー的な高揚より、日々の現実を優先する。ただ、現実に寄せ切って無味乾燥なカーライフにはしたくない。選んだのは、現実と気分の折衷点だった。



ガソリンのロングでは満足できないかも
「家族が増えたこともあって、そろそろロング(4ドア)に買い替えたかったんですが、ショートのキビキビした走りも捨てがたくて。そんな理由からディーゼルエンジンが気になるようになりました」。
こうして辿り着いたのが、G350 BlueTEC 35th Anniversary Edition(2014年モデル・以下G350 BlueTEC)だった。Gクラスは長い歴史の中で改良を重ねながらも、根っこに“道具としての設計思想”を残している。ラダーフレームを持ち、堅牢さを前提としたパッケージで、4WDとしての本質を外さない。そのうえでG350 BlueTECは、ディーゼルならではの扱いやすさ——特に市街地での出足や中速域の粘り——が日常の速度域で効いてくる。
持田さんは、そこを「本気で踏む」とか「最高速がどう」といった話に寄せない。もっと生活側の言葉で、必要十分を語る。さらに、家族の評価も後押しする。
「奥さんもゲレンデのスタイルを気に入ってくれてます。高いシートポジション、見切りの良さなど、とにかく運転しやすいらしいんですよ。だから買い換えるといっても、ゲレンデは前提条件でした」。
Gクラスの“箱”のような視界の分かりやすさ、着座位置の高さ。これらは、数値に現れないながら、毎日の運転では大きな価値だ。



「走りがうんぬんじゃない」——それでも“好き”が必要だった
「とはいえ、僕にとってクルマは道具。自分を運び、家族を安全に運ぶためのツールとして満足できれば走りがうんぬんっていうのは、あんまり気にしてないです」。
ただ、ここで終わらないのが持田さんの面白さだ。
“道具”と言い切る一方で、「道具として割り切りすぎると、運転すること自体が嫌になってくる」。
現在、週末はもっぱら子供たちのサッカーが中心だ。9歳、7歳、4歳の3人。試合、練習とその送迎は奥様と分担しながらもなかなかハードで、車内で食事を摂ることも、空き時間にPCを開いて仕事をすることもある。「うちのゲレンデは、車兼食堂兼部室兼仕事場です」。
「ゲレンデのスタイルそのものが好きなんですよね、結局。走りや積載量などのスペックよりも、サッカー教室に通う3人の子どもたちが、元気に乗り込む姿までを含めて楽しい時間ですから」。
時代を超えて、認められたデザイン、多少雑に使っても受け止めてくれる懐の深さ。家族5人に十分な積載量。視点は高く、見切りがいい。堅牢で、安心感がある。そういう“生活の耐久性”をすべて持ち合わせているのが持田さんにとってのGクラスのようだ。



それでも最新モデルが気になる最大の理由
一方で、持田さんは今の愛車を美化しすぎない。
2014年から11年が経ち、いまの基準で見れば安全装備や運転支援機能に物足りなさがあることも、率直に口にする。
「子供を乗せている以上、最新の安全性能は気になります。最新のG450にも乗ってみたい。当然あらゆるメーカーの新しいモデルにももちろん興味はありますが、最先端のものって僕からするとちょっとシャープすぎるんです。デザインも機能も“最先端”であることに威圧感を感じるというか。だから依然としてゲレンデ以外の選択肢にはなかなか出会わないですね」。
この“かっこよすぎる“という感覚こそが歴代「ゲレンデのスタイルが好き」という最大の理由でもある。持田さんは、最先端を否定しない。ただ、自分が咀嚼して“自分のもの”にするまでに時間がかかる、と言う。服もジュエリーも同じで、買ったシーズンはどう着たらいいかわからず放置、翌年になって、やっとイメージが湧いてお気に入りとなっていくこともしばしばあるのだそうだ。Gクラスは、デザインコードを大きく崩さずに改良してきた稀有な存在だ。フロントガラスの角度や空力、快適性、安全性などは時代に合わせて進化している一方で、基本となるデザインが頑なに守られている。持田さんから見ても「ほかに比較できるモデルがない」ほどの稀有な存在である。すでに十分に咀嚼されたスタイルに、家族を守る安全性能を搭載した現行モデルのG450が気になるのはむしろ当然ともいえるだろう。
普遍性とは、古さではなく“生活に耐えること”
持田さんがG350 BlueTECに惹かれるのは、ヴィンテージ礼賛とは少し違う。
「古いデザインが好きなわけでもないんです」と言い、肩に力を入れず、自分の審美眼を信じる。
そのうえでG350 BlueTECは、家族の生活に耐え、仕事の時間にも耐え、そして何より、乗る人の気分を落ち着かせる“形”を持っている。カクカクした視界のわかりやすさ、座席の高さ、荷物の積載性。日々の送迎で酷使されても、クルマが負けない。
「道具」と言いながら、実はその道具が、“気分”という見えないものまで運んでいる。
忙しい週末、子供が「お腹すいた」と言う。車内で温かいものを一緒に食べる。合間にPCを開く。FMラジオを流して、雑多な情報に触れるのも車の中だ。そんな生活の器として、G350 BlueTECは機能している。
速さより、強さ。新しさより、馴染み。でも、進化を拒まない。もし次があるなら、新しくて快適なゲレンデも、G450も、きっと面白い——そう言える余白を残して、いまはこの2014年式のG350 BlueTECが、持田さんの暮らしを支えている。
「所詮道具です」。
そう言いながら、最後に残るのは、道具を超えた“好き”の輪郭だ。その輪郭が、今日も持田さんを、家族を、運んでいる。




