INTERVIEW 小林雄介さん(一般財団法人ラリーニッポン代表理事)

SL43であれば、快適に景色と一体になれそうですね

今回、メルセデスAMG SL43 ロードスターを試乗してもらったのは、自身も2台のメルセデスを所有する小林雄介さん。日本の世界遺産や歴史的名所を巡りながら、国内外の参加者が交流を深めるクラシックカーツーリングイベント「RALLY NIPPON」の主催者だ。「僕たち日本人はもとより、海外の人たちにも日本を旅することで深く、美しい日本と出会って欲しい」。そんな小林さんの目に映るメルセデス・ベンツAMG SL43 ロードスターと、RALLY NIPPONにかける想いについて、話を聞いた。

  • 2026年07月23日
  • 構成・文:前田陽一郎
  • 写真:高柳健
撮影場所は小林さんの地元横浜にあるRALLY NIPPONの事務所兼、ガレージ。自身所有の車両から、知人のクラシックカーの保管もしている。

イタリアの夜に気づいた「日本を知らない自分」

RALLY NIPPONの原点は、2007年と2008年に小林さん自身が参加したイタリアの「ミッレミリア」にある。日本国内で開催されたラ・フェスタ・ミッレミリアを経て本場イタリアへと渡った小林さんは、世界遺産の中を走り抜ける興奮と、国を挙げての歓迎に心を震わせた。同時に、貴重な体験をすることになる。
「円卓を囲んでいると、アメリカやイタリアから来た参加者たちが日本のことを次々と質問してくるんです。しかも、僕らより遥かに詳しい知識をもっているうえで。ところが僕らは自国の歴史や文化について、全然答えられなかったんですよ」。
翌日、アッシジの世界遺産を走りながら、小林さんは同行者とこう話し合った。「俺たち、日本のこと全然知らないな」と。
「ここに参加している人たちは、文化への感度が高い。日本でも同じような内容のイベントができたら、きっと来てくれると思ったんです。そうすれば、僕たち自身も日本を学び直せる。日本の世界遺産を巡るラリーをやろう、とその場で決めました」。
帰国後、小林さんは実現に向けて動き始める。政治家や文化人との会食の場で構想を語ると、ある人物への紹介を受けた。自動車評論の草分けであり、カーグラフィック誌の創設者として知られる小林彰太郎氏だ。初対面の挨拶以降、数回にわたって何時間も話した。RALLY NIPPONというネーミングは、世界に通じるイベントを目指すなら、“Japan”でも“日本”でもなく“NIPPON”がいい。という彰太郎氏によるもの。こうして2009年、東京・国立劇場をスタートし京都・仁和寺をゴールとする第1回RALLY NIPPONが幕を開けた。

ガレージのなかには小林さんの所有する450SLCが。10月に予定される、第16回 RALLY NIPPONに出走予定のため、現在調整中。

父との記憶が宿る、2台のメルセデス

小林さんの車好きは、亡き父親の影響に他ならない。
「父は本当にいろんな車に乗っていました。メルセデスの450SLC、MGA、ポルシェ911Sの2.2リッター、フェラーリ・ディーノ308GT4、カマロSS。1、2年でコロコロ変えていたから、数えきれないですね」。
幼い頃から、新しい車が来るたびに父親とドライブに出かけた。その記憶が、今の小林さんを形作っている。
「車種がどうというより、車と一緒にどこかへ出かける、その時間が好きだったんです。父が隣にいて、知らない道を走って、知らない景色を見る。あの感覚は今でも僕の中にあります」。
現在、小林さんが所有する車は8台。ポルシェ911、アルファロメオのジュリア・スプリント・スペチャーレや1750GTV、ホンダS800、いすゞ117クーペなど、いずれも時代を彩った名車ばかりだ。その中に、2台のメルセデスがある。
1台目は、メルセデス・ベンツ450SLC。スカイブルーのボディが印象的な、1970年代を代表するグランドツアラーだ。
「父が乗っていたのはオリーブグリーンのSLCでした。だから僕もSLCが欲しかった。この車は、父との思い出そのものなんです」。
SLCの魅力について、小林さんはこう語る。
「優雅さの中にスポーティさがある。1台でポンと置いてあっても、いわゆるスポーツカーという印象ではないんです。どこか品がある。でも走れば200馬力以上あって、しっかり速い。ああいうバランスの車は珍しいですよ」。
2台目は、メルセデス・ベンツ300TE。W124系のステーションワゴンだ。
「もう、乗っていて安心。しっかりしているし、直進安定性も最高。全然、今の車と遜色ないですよ。道具として完成されている。この2台は絶対に手放さないですね」。

SLの本質は「Sport Leicht(シュポルト・ライヒト)」という名に加え、クラシカルな幌(ソフトトップ)、ダウンサイジングされた排気量、初の2+2シートレイアウトなど、ライトウェイトなピュアスポーツカーそのもの。

SL43に感じた「正常な進化」

今回、小林さんに試乗してもらったのは、メルセデス・ベンツAMG SL43 ロードスター。AMGが手がける新世代のSLで、2.0リッター直列4気筒ターボエンジンにF1由来の電動ターボ技術を組み合わせ、381psを発生する。後輪駆動のレイアウトと、15秒で開閉する電動ソフトトップによるオープンエアの走りが特徴だ。
約30分の試乗を終えた小林さんの第一声は、「誰が乗っても安心して楽しめる車」だった。
「高機能で、本当に現代の人に合っている車だと思います。正常に進化しているな、という印象ですね。メルセデスは昔から、その時代の技術を惜しみなく投入してきたメーカー。このSL43にも、それを感じます」。
クラシックカーを知り尽くした小林さんだからこそ、現代の車の進化が際立って見える。
「昔の車って、やっぱり乗り手を選ぶところがあるんです。エンジンの調子を見ながら走らないといけないし、ブレーキだって今ほど効かない。その緊張感が楽しいんですけど、誰にでも勧められるかというと難しい。でもSL43は違う。踏めば走る、曲がる、止まる。当たり前のことを、当たり前に高いレベルでやってくれる」。
ボディサイズは全長4,700mm、全幅1,915mm。迫力ある見た目だが、取り回しに苦労するほどではないという。
「よくデザインされていますよね。昔のカーデザインはもっと自由で、そこにエンジンを積んで、何人乗れるかを考えればよかった。今は安全基準があって、エンジンのスペースがあって、その上でデザインを仕上げていく。順序が違う。だからこそ、このバランスを実現しているのはすごいことだと思います」。

「ハイパーアナログ」と名付けられた初代300SLロードスターの伝統を再解釈したインテリアデザイン。F1に由来する、電気モーターが組み込まれたターボチャージャーが量産車として世界で初めて搭載される。

オープンエアの新しい形

試乗中、特に小林さんが感銘を受けたのは、オープン時の快適性だった。
「驚いたのは、屋根を開けた時の風の巻き込みのなさ。本当にないんですよ。屋根が開いている感覚がないぐらい。高速道路を走っても、普通に会話ができる」。
クラシックカーでオープンを楽しんできた身には、その差は歴然だった。
「昔の車だと、オープンにすれば髪の毛は逆立つし、高速道路ではバタバタ音がする。雨が降ってきたらどこかから雨漏れしないかと心配になる。でもこのSL43なら誰でもオープンエアを楽しめる。オープンカーの敷居を下げてくれる車だと思いますね」。
SL43には、V8ツインターボを搭載するAMG SL63も存在する。しかし小林さんは、排気量やグレードの上下にはこだわらない。
「日本人って、一番大きい排気量がいいんだという感覚がどこかにある。でも、それを超えたところに、本当の意味での車の楽しみがあるように思うんです。欧米の人たちには、そういう感覚がありますよね。自分が満足できれば、それで十分なんだという自信。SL43は、4気筒でも十分に楽しい。この軽さを楽しみたいという人には、こちらが正解なんだと思います」。
そして、こう続けた。「せっかくこういう車に乗るなら、遠くに出かけたいですね。屋根を開けて、風を感じながら、知らない道を走る。近所の買い物だけじゃもったいない。オープンカーって、そういう旅のための車だと思うんです。RALLY NIPPONでも、オープンカーで参加される方は本当に楽しそうにしている。風景と一体になれるというか、車の中にいながら外の空気を感じられる。それがオープンカーの一番の魅力ですから」。

ガレージ内のRALLY NIPPONオフィスには歴代のポスターが。白川郷は記念すべき第一回のハイライト。「美しい日本と美しい車」を一枚の写真でいかに表現するか。「毎回それがいちばんの楽しみであり、苦しみです」。

世代と国境を超えて、クルマが継なぐもの

RALLY NIPPONは今年で16回目を迎える。当初の目論見通り、海外からの参加者も年々増えていて、今や半数近くにのぼる。
「参加された方々が自国に帰って“こんな楽しいイベントがあった”と話してくれているようなんです。だからここ数年は参加者を募らずとも限度枠は常にいっぱいです」。
小林さんがRALLY NIPPONで最も大切にしているのは「世代を継なぐ」ことだ。
「普通なら、年配の人と若い人が一緒にいても、お互い距離ができてしまうじゃないですか。でも車という共通項があると、全然違うんです。磁石に吸い付けられるように、みんな打ち解けていく」。
RALLY NIPPONの会場では、世代を超えた交流が自然に生まれる。
「年配の方々は自分の経験を伝えたいんです。ものすごく伝えたい。若い人はそれを聞きたい。あの光景を見ていると、車ってすごいなと思いますね。親子関係だって、何もなければなかなか変わらない。でも車を一つ挟むだけで、会話が生まれますから」。
今後の構想として、小林さんは東南アジアとの交流を挙げる。
「向こうの人たちは、本当に日本を走りたがっている。逆に、日本の人たちも海外を走ってみたいという声がある。その橋渡しをしていきたい。世代を継なぐことと、国境を越えて人を継なぐこと。どちらも車があればできると思っています」。
RALLY NIPPONの会場で、小林さんは毎回ゴール地点に立ち、参加者を出迎える。旗を振り、一人一人の顔を見る。
「どんな顔で帰ってきているかを確認したいんです。満足して帰ってもらうことが、僕にとって一番の目標。『また来たい』と思ってもらえるイベントを、これからも作っていきたいですね」。
車という存在が、人と人を、世代と世代を、国と国を継ないでいく。小林雄介さんのRALLY NIPPONは、その可能性を信じ続ける旅だ。

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