大人のドライブ旅 第2回

日本の原風景を求めて、松本から飛騨古川&丹生川へ

人には、立ち止まり自分の足元を見つめる時間が必要だ。そんな時は旅にかぎる。都会の喧騒と密から逃れ、信州松本から飛騨古川&丹生川へメルセデスを駆った。雄大な北アルプスや奥飛騨の景色の中を走り抜けるのは気分爽快。話題のアニメのゆかりの地や古い町並みはまさに心和む日本の原風景。飛騨伝統の薬草ティーは体に染み入るほろ苦さで、リモート疲れの心と体を生き返らせてくれた。

  • 2021年08月05日
  • 文:いからしひろき
  • 写真:阿部昌也、いからしひろき
  • 取材協力:飛騨市役所商工観光部観光課
【イメージ】大人のドライブ旅 第2回
【イメージ】Mercedes-AMG GLE 53 4MATIC+ Coupé(ISG搭載モデル)

有数の景勝地を抜け、安房トンネルでゆとりの峠越え

早朝6時、東京都心を出発。中央道のインターに入り、ひたすら西へと走る。近ごろ人流という言葉を耳にするが、車流も(そういう言葉があるのなら)随分と減ったような気がする。

日本経済には良くないのだろうが、一ドライバーとしては空いた道路は願ったりかなったり。特に渋滞もなく、南アルプス、八ヶ岳など、そうそうたる景勝地を脇目にハイウェイを疾走。

そして塩尻の手前で分水嶺を超えた。ここから先の川は日本海へと注ぐ。それだけで少し遠くへ来たなと感じる。トンネルの先は松本平、景色が一気にひらけ、雄大な北アルプスが眼前に広がる。

松本インターチェンジを降りたら、松本城方向に背を向け、国道158号線を松本電鉄上高地線と並行に西へ走る。城下町を散策したり、安曇野のまっすぐな道を突き進んだりするのも乙(おつ)だが、今回は日本の原風景を探しに、かつては越えるのも難儀した峠の向こう側、飛騨へ。

【イメージ】Mercedes-AMG GLE 53 4MATIC+ Coupé(ISG搭載モデル)
【イメージ】Mercedes-AMG GLE 53 4MATIC+ Coupé(ISG搭載モデル)

市街地を抜け、梓湖にさしかかる辺りから、周りの景色は山の色を濃くしてきた。左に折れれば名湯・白骨温泉。思わず湯けむりが脳裏に浮かぶが、まだゴールはここじゃない。

しばらく走り、梓川をまたいだところで分かれ道にさしかかった。右に行けば上高地だ。今度は上高地帝国ホテルの赤い三角屋根がフラッシュバックするが、うーん、まだまだ。

ハンドルを左に切る。1997年に開通した「安房トンネル」が見えてきた。入り口手前に安房峠越えの旧道があるが、そこは狭くて急なヘアピンが連続するワインディング、いや「難路」だ。今日はそれに挑む気分じゃない。

10分ほど走ってトンネルを抜けると、そこは奥飛騨の平湯温泉。さらに平湯トンネルを数分走れば、乗鞍山麓の五色ヶ原(ごしきがはら)の森だ。旧道でここまで来ようと思ったら1時間はかかるだろう。人生は短い。たまにはショートカットも大切である。

【イメージ】Mercedes-AMG GLE 53 4MATIC+ Coupé(ISG搭載モデル)
【イメージ】善久寺にある両面宿儺の像 1

地元の英雄「両面宿儺」が語りかけてくること

高山市の丹生川町は、農山村の風景が乗鞍岳の裾野に広がる長閑な地域。そして「両面宿儺(りょうめんすくな)」伝説の地である。

両面宿儺とは、日本書紀に描かれている〈顔が2つ、手と足が計8本〉の怪物のこと。一説には5世紀前後にこの地を治めていた豪族の長(おさ)とされ、大悪党として描かれている日本書紀とは裏腹に、地元では神仏として祀られるほどの英雄だ。

かねてから地元特産のかぼちゃや温泉にその名が冠せられてはいるが、対外的な知名度は今ひとつだった。しかし大人気アニメ「呪術廻戦(じゅじゅつかいせん)」にこの両面宿儺をモデルにしたキャラクターが登場したことで、ファンがゆかりの地を聖地巡礼しに来るなど、にわかにブームとなっている。

【イメージ】善久寺にある両面宿儺の像 2
【イメージ】善久寺にある両面宿儺の像 3
善久寺にある両面宿儺の像
両面宿儺洞(住所:岐阜県高山市~※現在入山制限中)
【イメージ】両面宿儺洞入り口の祈祷所

例えば、五色ヶ原の森を過ぎてすぐの同町日面地区・出羽ケ平には、両面宿儺が生まれでた、あるいは棲んでいたとされる「両面宿儺洞」がある。

その近くには大和朝廷に討伐されて命を落とした両面宿儺を供養するための「善久寺」が。この寺にある両面宿儺の像は室町時代に作られたそうで、頭の前と後ろに2つの顔、手に斧を持つ姿は、開拓や農耕の指導者だったことを忍ばせる。寺近くのあぜ道には、洞窟から出てきた両面宿儺をもてなすのに使った「御膳石」、さらに国道158号沿いの林の中には、「両面宿儺の足跡」とされる石もある。

【イメージ】善久寺正面
善久寺(住所:岐阜県高山市丹生川町日面788)
【イメージ】両面宿儺の足跡
宿儺の足跡(住所:岐阜県高山市丹生川町坊方)
【イメージ】千光寺円空作両面宿儺像
千光寺(住所:岐阜県高山市丹生川町下保1553)

円空上人ゆかりの寺として名高い「千光寺」も、今から約1600年前に両面宿儺が開山し、その後真如親王(弘法大師の十大弟子のひとり)が建立した古刹だ。同寺には4体の両面宿儺像が祀られており、中でも円空が彫った木像は一見の価値あり。他の像は両面(2つの顔)が前と後ろにあるが、円空の像だけはどちらも体の前についているからだ。方や怒りの顔、方や柔和の顔。それを同時に眺めていると、怒った顔が大笑いする顔にも見えてくるから不思議だ。物事には表と裏がある──そんなことを、この両面宿儺像は伝えようとしているのかもしれない。

ちなみに、両面宿儺洞そばの「飛騨大鍾乳洞」は、全長800mにも及ぶ国内屈指の観光鍾乳洞だ。標高900mは観光鍾乳洞としては日本一の高さとされている。洞内の通年平均気温は約12℃。夏は涼しく冬は暖かい。長旅の気分転換にいかが。なお駐車場には地元の「飛騨にゅうかわ宿儺まつり」で使われていた直径6m10cmの「宿儺鍋」が展示されている。

【イメージ】Mercedes-AMG GLE 53 4MATIC+ Coupé(ISG搭載モデル)
【イメージ】瀬戸川と白壁土蔵街
瀬戸川と白壁土蔵街(住所:岐阜県飛騨市古川町壱之町)

自分に原点回帰 「飛騨古川」の町並みと薬草グルメ

丹生川の長閑な山里風景を抜けると、少しずつ街がひらけてくる。国道158号は、丹生川郵便局を過ぎてすぐの町方交差点で左に折れ、飛騨高山へと向かうが、今回はそのまま直進。県道89号を西へと向かう。

20分余りで到着したのは「飛騨古川」。高山の奥座敷と呼ばれ、飛騨に残るもう一つの古い町並みとして知られる。

街中を流れる瀬戸川には1,000匹余りの鯉が泳ぎ、白壁土蔵の風景に彩りを加えている。川沿いには白と紫の花菖蒲。その脇の石畳の道に、ゆっくりワインレッドの車体を滑らせる。旅人は礼儀として旅先の風景の一部となるべきであるが、車もしかり。こうした歴史と伝統のある町並みに、GLEクーペは様になる。

飛騨市役所の無料駐車場に車を止め、ぶらり散策。街中は車の通行こそできるが、気になる店があったとしても駐車場を併設していない場合が多いからだ。

【イメージ】ハーブとスパイスで煮込んだスパイシーチリコンカンライス
月に一度の「ご褒美ランチ」。この日は「ハーブとスパイスで煮込んだスパイシーチリコンカンライス」だった(メニューは毎月異なります)
【イメージ】「飛騨の森のベーグルサンド」「飛騨産トマトとしいたけをたっぷり使った特製林ライス」「クロモジコーヒー」
通常メニューの「飛騨の森のベーグルサンド」と「飛騨産トマトとしいたけをたっぷり使った特製林ライス」、そしてクロモジコーヒー

毎年4月に行われる「古川祭」の大きな屋台を展示する「飛騨古川まつり会館」前の広場を通り抜け、土産物屋などをひやかしながら、5分ほどでたどり着いたのが「FabCafe Hida(ファブカフェ・ヒダ)」。本日の昼飯処である。

こちらは飛騨古川の地で100年以上の歴史を持つ酒蔵を改装し、2016年春にオープンしたカフェ兼宿泊施設。土地の面積の93%が森林で、そのうちの7割が広葉樹という飛騨の特色を活かした町づくりの拠点でもあり、地元の木を使った木工体験をすることもできる。

通常のランチメニューはハヤシライスかベーグルサンドの2種類だけだが、この日は月に一度の「ご褒美ランチ」デー。飛騨の食材を贅沢に使った数量限定のスペシャルメニューとあって売り切れ必至だが、この日は運良く注文可能。ドリンクは名物の「クロモジコーヒー」(アイスもある!)をチョイス。ボリューム満点の食事を楽しんだ後は、古民家の木のぬくもりに包まれながら、ゆったりとした時を過ごした。

【イメージ】FabCafe Hida 1
【イメージ】FabCafe Hida 2
FabCafe Hida
住所:岐阜県飛騨市古川町弐之町6-17
TEL: 0577-57-7686
休み:水曜日
【イメージ】バラエティ豊かなトッピングのせんべい
味噌煎餅本舗 井之廣
住所:岐阜県飛騨市古川町弐之町7-12
TEL:0577-73-2302
休み:日曜日

カフェを出ると再び飛騨古川の町を散策。並びに見つけたのが「味噌煎餅本舗 井之廣(いのひろ)」だ。明治41年創業、飛騨名物の味噌煎餅の製造元である。最初は古びた店構えに引かれて立ち寄ったが、店内のバラエティ豊かなトッピングのせんべいに目を奪われた。

えごま、緑茶玄米、サツマイモはまだわかる。しかしトマト、野草グラノーラ、コーヒー、バラとなると味の想像が付かない。特別に試食させてもらうと、味噌を練り込んだ甘しょっぱい生地に、どれも意外と合う。特に野草グラノーラはヘルシー志向の女性にウケそう。ワインやウイスキーなどの洋酒とも相性が良さそうだ。個包装なので近所や職場に配るのにも重宝するだろう。

【イメージ】ひだ森のめぐみ 1
【イメージ】ひだ森のめぐみ 2

最後は、地元の友人から“おすすめスポット”として聞いていた「ひだ森のめぐみ」へ。こちら、飛騨の薬草を味わいながら、薬草を使った様々な体験ができる施設だ。土壌にミネラル分を多く含む飛騨は薬草の宝庫。飛騨市だけでも約250種類の薬草が自生しているという。地元の友人も「子供の頃は“くそまずい”薬草茶をお婆ちゃんに飲まされた」と証言。しかし「風邪一つひかなかったのはその薬草茶のおかげ」だそうだ。

こちらではそうした飛騨伝統の薬草文化を今風にアップデート。まずは、厳選した薬草をブレンドしたハーブティーを飲ませてもらった。文句なしに「うまい!」と言える味ではないが、体に染み入るしみじみとした滋味深さがある。驚いたのは、しばらくするとじんわり汗が出て、尿意ももようしてきたこと。どうやら薬草の血行促進作用、利尿作用は本当らしい。

裏庭へ案内してもらうと、そこには各種薬草の鉢植えが所狭しと並べられていた。「齧ってみて」と店の人に手渡された葉っぱを喰んでみると、まさに目が覚めるような苦さ。 「苦いということは、それだけ不健康だということ」と指摘されたがさもありなん。リモートワーク続きでストレスが溜まる一方だからだ。もしかしたら自分の体に導かれて、この場所に来たのかもしれない……。

【イメージ】ひだ森のめぐみ 3
【イメージ】ひだ森のめぐみ 4
ひだ森のめぐみ
住所:岐阜県飛騨市古川町弐之町6-7
TEL: 0577-73-3400
休み:年末年始
【イメージ】Mercedes-AMG GLE 53 4MATIC+ Coupé(ISG搭載モデル)

松本から約2時間。ランチタイムと散策の時間を含めても、十分日帰りできる距離だ。しかし、物理的な距離以上に「遠くに来た」という感覚を味えた。これぞ旅がもたらす心理的デトックスの一つだ。そして日本の原風景ともいえる自然、歴史、古い町並み、そして“苦い”薬草は、日々の忙しさで見失いつつあった自分の心と体に向き合わせてくれた。まさに原点回帰のドライブ旅である。

【イメージ】Mercedes-AMG GLE 53 4MATIC+ Coupé(ISG搭載モデル)

今回の取材車両

Mercedes-AMG GLE 53 4MATIC+ Coupé(ISG搭載モデル)

圧倒的にパワフルな3.0L直列6気筒直噴ターボエンジン+ISG+電動スーパーチャージャー、そしてAMG 4MATIC+、AMG ACTIVE RIDE CONTROLなど、Mercedes-AMGが誇る最先端テクノロジーが注がれた、クーペスタイルの流麗なSUV。春夏秋冬、良路悪路を問わず、日本のグランドツーリングにこの上ない安心感を提供する。

ヤナセ松本支店に聞いた「おすすめの店」

全国をネットするヤナセディーラーはもちろん松本にも。地元を知り尽くしたヤナセ松本支店がおすすめするお店をご紹介。

【イメージ】榑木野(くれきの)本店 1
【イメージ】榑木野(くれきの)本店 2
本格派、手打ちの信州そばなら「榑木野(くれきの)本店」

1991年設立の本格手打ちそば専門店。長野県産のそばを独自の配合でブレンドし、石臼挽きで挽いたばかりのそば粉を使用した本格手打ちそばは、地元の食通達に愛されている。市内に3店舗。本店は合同庁舎入り口交差点近くにある。なまこ壁の風情ある店構えの中は広々とし、密を避けながら安心して食事ができる。基本の八割の他、本店限定の十割と更科そばはどれもボリューム満点。天ぷらそばなどの種物や、馬刺しやそば餃子などのそば前も豊富である。

榑木野(くれきの)本店
住所:長野県松本市島立859
TEL: 0263-47-4741
休み:火曜日
https://www.kurekino.co.jp/tenpo/honten/

株式会社ヤナセ 松本支店/メルセデス・ベンツ松本
【イメージ】株式会社ヤナセ 松本支店/メルセデス・ベンツ松本
住所
長野県松本市野溝木工1-3-3
TEL
0263-24-3611

休み: 月曜日 第2火曜日・年末年始 ※月曜日が祝日の場合は営業、翌火曜日休み

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