ヤナセとクルマとヒトのコト Vol.3
メルセデスのパーツ担当は、努力と経験が必須
クルマの修理や整備を行う上で必須なのが、メーカー純正パーツだ。サービス工場には「パーツ担当」という職種があり、数万点に及ぶパーツの中から現場のメカニックが求めるものを提供するほか、パーツの発注や在庫管理といった縁の下の力持ちといった役割を担っている。メルセデス・ベンツのパーツを担当している奥山は、若手ながらメルセデス・ベンツ日本の表彰を受けるほどの実績を残している。そこには周囲のサポートと、ヤナセならではの社風が大きく関係していた。
- 2023年03月09日
- 文:伊達軍曹
- 写真:安岡嘉
純正パーツやアクセサリを管理する「パーツ担当」
ヤナセのサービス工場には「パーツ担当」という、一般的にはやや耳慣れない名称の職種が存在する。各支店が必要とする多種多様な自動車部品の在庫を確認し、必要に応じて、必要なものを発注する。また、メカニックが作成した車検や点検などの見積もりに沿って「その整備に必要とされるパーツ」を判断し、収集し、必要があれば発注し、メカニックに手渡す――という業務を専門に行っている職種。それがパーツ担当だ。
クルマというものが数万点の部品の集合体である以上、いかに優秀なメカニックやサービスアドバイザーがいたとしても、またいかに熱心なセールスがいたとしても、「適切なパーツ」がないことには、クルマというのは――基本的には――1メートルたりとも前に進まない。その意味で、業界でも稀有な存在であると思われる「パーツ担当」が、お客様ならびに支店の全部署に対して担っている責任は、はなはだ重大であると言える。
メルセデス・ベンツ日本主催の「2021年度メルセデス・ベンツ販売店表彰式」において「優秀部品担当者賞」をAブロックという超激戦商区で受賞したのは、当時入社3年目の若手女性社員、奥山愛理沙だった。実質的に入社初年度の業務実績を評価され、受賞したのは、ひとえに本人の才能と努力によるものではある。
だが、数万点にものぼる自動車部品を司るという、困難で特殊なミッションを若手社員が見事に遂行し、今現在も遂行できている理由のひとつに、「そこにヤナセイズムがあったから」と推測することも妥当であるように思える。そこに実際に「ヤナセイズム」はあったのか。それは具体的にはどんなものなのだろうか。
入社の動機は「輸入車カッコいい!」だった
「父が自動車の整備工場を営んでいて、私もオートバイが好きで乗っていましたが、『クルマに詳しい』『機械部品に興味がある』といったことはありませんでした」
絵を描くことが好きな少女だった奥山は、デザイン科がある高等専門学校(高専)へ進学。入学から5年後に就職活動のタイミングを迎えた。だが「絵描き」になるつもりはなかった。
「絵を描くことは相変わらず大好きでしたが、それを仕事にしてしまうと、嫌いになってしまうような気がして……」
学校に勧められるがまま、デザインと密接な関係がある「印刷会社」の仕事を何社か見学に行った奥山だったが、「これこそが自分がやりたい仕事である」とは思えなかった。
そんなとき、奥山が通っていた高専にヤナセの求人情報が届いた。「パーツ課」なる部署の新卒社員を募集するとのことだった。「そういえば私、実家は車屋さんだし、バイクも好きだし、いちおう見てみるか」といった軽い気持ちで、ヤナセ本社を見学してみることになった。
「会社全体に活気があって、社員の皆さんも本当に楽しそうに仕事をしてらっしゃって。それで『いい会社だな……』と思ったのと、あとは単純に『輸入車、カッコいい!』みたいな部分で(笑)入社したいと思い、運良く採用していただけました」
メルセデス・ベンツ東京芝浦パーツ課に配属され、「メルセデス・ベンツのパーツ担当」となった奥山。だが実際に配属されてみると、前述のとおり「数万点の部品の集合体」であるクルマのパーツ担当とは、「いい会社だな」とか「輸入車ってカッコいい!」程度のマインドでは務まらない仕事であることを思い知らされた。
膨大な種類のパーツを把握するために必死で勉強した
「私自身の学生気分が抜けてなかったというのもあると思うのですが、先輩からいただいた『車の構造のすべて』みたいな本を読んでもなかなか覚えられませんでしたし、現場での勝手もわからないため……ミスを連発してしまったというのが、最初の半年間でしたね」
パーツ担当は、基本的に顧客と直に接することはない。それゆえ、仮に奥山がミスを犯した結果として顧客に迷惑をかけたとしても、謝罪するのは奥山ではない。アドバイザーやセールスが、「いや実はパーツ担当が新人でしてね……」などの言い訳をいっさいすることなく、「このたびは誠に申し訳ございませんでした!」と、顧客に深々と詫びるのだ。
先輩社員が自分に代わって頭を下げている現場を見てしまったのが、ちょうど「学生気分」が抜けてきた頃と合致したからだろうか、奥山は変わった。整備見積を見ても理解できない部分はメモを取り、現車を見に行き、パソコン上のパーツカタログと照らし合わせた。メルセデス・ベンツの本国であるドイツで作られたパーツカタログの「癖」もひとつずつ、決して大げさではなく「本当に必死で」学んでいった。
「例えばクーラントポンプを交換するにしても、必要なパーツはポンプだけではありません。でも整備見積書には『クーラントポンプ交換、その他交換部品』としか書かれていない場合も多いので、パーツカタログや過去の履歴を参照しながら『ココを替えるなら、コレとアレも必要だな……』という感じでひとつずつ覚えていきました。パーツの仕事というのは経験が重要で、パーツ担当ひと筋何十年という諸先輩にはまったく敵わないのですが、入社1年を過ぎた頃から、ある程度の手応えは感じられるようにはなってきました」
そうして前述のとおり、メルセデス・ベンツ日本が主催した「2021年度メルセデス・ベンツ販売店表彰式」において、気がつけば奥山愛理沙は「優秀部品担当者賞」を、Aブロックという超激戦商区で受賞するまでに至っていた。
純正コレクションも「パーツ」の一部
そして話は冒頭付近で申し上げた「ヤナセイズム」に戻る。奥山がパーツ担当として頭角を現すことができた第一の要因は「本人の才能と努力」であることは間違いないわけだが、それでも「ヤナセだから、奥山はできた」と言える部分もあったのではないか?
「あった……といいますか今この瞬間も、あると思います。どんなに忙しいときであっても、パーツ担当の諸先輩もメカニックの皆さんも、質問に行けば絶対に嫌な顔をせずに答えてくれます。むしろ1を聞くと10答えてくれるぐらいの勢いで(笑)教えていただけるんです。そういった風通しの良さというか『働いている人の心根のよさ』みたいなのは、ヤナセ特有なのかな? と思っています。あとは……「信頼」でしょうか」
入社初年度の若者を信頼し、「メルセデス・ベンツのパーツ担当」という重責を担わせるだけの度量のようなものがヤナセという会社にはあると、奥山は言う。
「それは信頼とか度量といったあいまいなものではなく、『若い社員が仮に何かミスをしたとしても、ヤナセという会社は100%絶対に、それをフォローできる』という合理的な自信の現れなのかもしれません。しかしいずれにせよ、そんな会社で働けていることを本当にうれしく思いますし、パーツ担当という仕事を通じて、メルセデス・ベンツにお乗りのお客様の人生に、少しでも貢献していけたら――と思っています」
奥山が所属するメルセデス・ベンツ東京芝浦は、前述した「優秀部品担当者賞」だけではなく、2022年度上期の「メルセデス・ベンツ コレクション展示コンテスト2022」の優秀拠点賞も受賞している。そしてメルセデス・ベンツ東京芝浦内にある同コレクション陳列コーナーの「すべて」を担当しているのが奥山だ。多種多様なコレクションの発注とディスプレイおよび商品のラッピングなどすべてを担当しているだけでなく、購入を希望するお客様への販売も行っている。
「メルセデス・ベンツのパーツ担当としては全然まだまだですが、メルセデス・ベンツ コレクションについては、実は『私が一番詳しいはず!』という自信があるんです」と笑う奥山。だがパーツのほうでもそう遠からぬ将来、同様の「自信」が奥山の心の中に生まれる可能性は高いのかもしれない。なぜならば、そんな努力家の奥山を見守り、そして育てていくだけの度量あるいは土壌が、この会社には確実に存在しているからだ。
メルセデス・ベンツ東京芝浦
- 住所
- 東京都港区芝浦1-6-38
- TEL
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定休日 月曜日・第二火曜日
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