INTERVIEW 東儀秀樹さん(雅楽師)

EQE SUVのナチュラルなフィーリングを生み出した
メルセデスの技術者に感服しました

2023年8月に登場したメルセデス・ベンツ EQE SUVは、Cd値0.25という良好な空気抵抗性能とAクラスを下回る4.8mの最小回転半径、最大528km(WLTCモード)の航続距離など、多くのトピックがつまったEQシリーズの最新モデルだ。ミュージシャンという音にもっとも敏感な職業であり、数多くのクラシックカーのステアリングを握ったクルマ好きである東儀秀樹さんは、最新のEVの静けさと運動性能をどう評価するのだろうか。

  • 2023年11月02日
  • 文:伊達軍曹
  • 写真:尾形和美
東儀秀樹(とうぎひでき)。東儀家は奈良時代から1300年間に渡って雅楽を世襲してきた楽家。宮内庁楽部在籍中は、篳篥(ひちりき)を主に、琵琶、太鼓類、歌、舞、チェロを担当した。現在は古典的な雅楽公演以外にも、現代音楽とのコラボレーションも精力的に行っている。作曲家、俳優としても活躍中。

エンジンが存在しないから静かだけれど
音に対する違和感はまったくない

言わずと知れた雅楽器演奏者であり、ジャンルを超越した音楽を作り上げるミュージシャンであり、そして「重度のクルマ好き」でもある東儀秀樹さん。さまざまなクラシックカーを愛でる日々を過ごしながら、イタリア本国のミッレミリアにも出場した。

そして取材日に自らステアリングホイールを握ってドライブしてきたのは、1993年式のAMG 500E 6.0。ご承知のとおりW124型メルセデス・ベンツをベースとする希少なモンスターセダンだ。「この1993年式が、僕が持っているなかでは“一番新しい車”なんですよ」と、爽やかに笑う。

そんな「アナログ名車をこよなく愛する東儀秀樹」がメルセデス・ベンツ EQE 350 4MATIC SUV――電気自動車専用プラットフォーム「EVA2」を採用し、前後アクスルにそれぞれ電動パワートレイン「eATS」を搭載する最新のEVのステアリングを握るとき、東儀さんはいったい何を思うのだろうか?

「駐車スペースからEQE SUVを出す際には、正直『不気味なほどに静かだな…』という違和感を覚えました。しかし数百メートルも走らせると、音についての違和感はまったくなくなりますね」

……なぜ、違和感は消滅するのだろうか?

「当然ながらいくら走ってもエンジン音は聴こえてこないわけですが、タイヤの接地音とでもいうべき音が絶妙に車内に入ってきて、それが速度に比例して大きくなったり小さくなったりするんですよ。つまり『車という機械を今、自分が制御しているのだ』という感覚が、決して希薄ではないんです。EVの車内というのは走っていても無音に近い、失礼ながら『気持ち悪いモノ』なのだろうと思い込んでいましたが――実際は違うのですね。これは、人間の生理に合致しています」

アクセル・ブレーキペダルのフィーリングが絶妙

なにせ「1993年式のAMG 500E 6.0が僕のなかでは『最新世代の車』なんです(笑)」という東儀さんだけあって、走り出す前は「キーシリンダーを鉄製の鍵で回転させるタイプではない」というだけで、既に「……こういう車は僕には合わないんじゃないか?」と思ったそうだ。

しかし実際に幹線道路を行くメルセデス・ベンツ EQE SUVの操縦フィールは、東儀さんが普段乗っているアナログ名車たちとほぼ相違なかったという。

「試乗前にもっとも危惧していたのは、アクセルペダルとブレーキペダルのタッチだったんです。最近のバイワイヤ式となったペダルの利き方は、僕の体感や意志と差がある場合も多かった。つまり、車と自分との間でコミュニケーションがうまく取れないんです。いや取れないわけでは決してないのですが、ちょっとしたズレのようなものが、結果として僕の中では大きな違和感になっていたんですね」

「しかしこれはまるで……きわめて高性能なアナログ式のブレーキが、油圧によって作動しているかのようなフィーリングです。いやほんと、メルセデスの技術者の人たちはよくやったなあ……。このタッチであれば、僕の回りにいるような『アナログ名車派』からもいっさい文句は出ないでしょう」

EVのパワーとトルクは「速い」うえに「安全」

EQE SUVの電動パワートレインが発生させる最大765Nmというビッグトルクの威力、そしてアクセルペダルを踏んだ瞬間から力が伝わる「モーター駆動ならではの味」も、東儀秀樹的には完全にOKであるらしい。

「僕が今日乗ってきたAMG 500E 6.0のパワーとトルクも相当なものですが、EQE SUVのほうが上ですね。この、端的に『速い!』という点はもちろん大いに魅力的ですが、それ以前に、このクルマは『安全』なんですよ。交差点や高速道路の入口など、合流する際に適切な速度まですぐさま持っていけるということは、安全性に極めて大きく寄与するポイントだと思うのです」

既にEQE SUVは幹線道路から首都高速に入った。そして首都高速を快調に走らせるなかで、東儀さんはひたすら「……いいよこれ。うん、本当にいい。いや、びっくりしたなぁ……」いったニュアンスの発言を繰り返した。

EQE SUVというEVを大いに気に入ってもらえたのはなによりである。しかし音楽家・東儀秀樹として、あるいはアナログ名車愛好家・東儀秀樹として、古典的で痛快なエンジン音がいっさい聴こえてこないという事実に対し、本当に不満を覚えないものなのだろうか?

「不満ですか? 本当にないですよ。本気でゼロです。クラシックカーでラリーなどに出場する場合は、常にエンジン音に耳を傾けておかないとリタイアにつながってしまいます。でも新しい世代のクルマは、耳を傾ける必要性がないじゃないですか? そうなると体の中というか脳の中で割り切ることができて、『うるさいよりも静かなほうがいいな』と思えるんです。クラシックカーのエンジン音を静かにしてほしいとは微塵も思いませんが、かといってEVに擬似的なエンジン音みたいなものを付けてほしいとも思いません。このクルマは『このクルマの在り方』として非常に正しいというのが僕の印象です」

思い込みでEVを敬遠するのは間違い!

エンジン車愛好家ながら、EVを激賞する東儀秀樹さん。もしも今すぐ「エンジン車は保有も走行も全面禁止。地上を走る四輪車はすべてEVとする」という法律が制定されたとしたら、どうするだろうか?

「もしもそうなったら僕はバイクに乗りますね(笑)――というのはまぁ冗談です。本質的な部分をいうと、僕の場合は『運転して移動する』という行為が大好きなのであって、それこそがファーストプライオリティなんです」

エンジンの有無やその種類などの前に「自分で運転する」という、そもそもの歓びがある――と?

「そうです。だからもしもそんな法律ができたと仮定しても、僕は楽しく運転できそうなEVを吟味して買って『運転して移動する』という行為をごく普通に楽しむでしょうね。そして今日、アクセルとブレーキなどが人間のフィーリングにしっかりと寄り添ってくれるEVがあるんだ――と知ることができたのは、本当によかったと思っています」

最後に東儀さんに尋ねたのは、こんな質問だ。「アナログ名車趣味」と、「EV趣味」あるいは「実用車としてのEV導入」は、果たして趣味人の人生のなかで並列できるものなのだろうか?

「可能であると思いますし、そうしなければならないと思います。内燃機関車という偉大な文化は、個人的に絶対に絶やしてはいけないと思っています。しかしそれはそれとして、EVというものは今やこんなにも『フィーリング的には同じ』になっているわけです。だから『EVなんて!』みたいな思い込みだけで敬遠するのは間違いであると、今日の朝までは『EVなんて!』と実は思っていた僕ですが(笑)、申し上げたいですね。エンジンうんぬんではなく『運転すること』が好きな人であれば、そしてメルセデス・ベンツ EQE SUVのようなEVであれば――きっと気に入ることでしょう」

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