メルセデスのサウンドシステム「Burmester 3Dサラウンドサウンドシステム」を
オーディオ評論家がインプレッション。

メルセデス・ベンツが採用しているドイツのハイエンドオーディオブランド、Burmester(ブルメスター)。各国のオーディオマニアを虜にする名機を世に送り出すブランドのサウンドシステムをオーディオ評論家に試してもらった。

  • 2024年10月17日
  • 文:山本浩司
  • 撮影:尾形和美
オーディオ評論家 山本浩司さん:大学時代からステレオサウンド社でアルバイトをして、卒業後はそのままステレオサウンド社に就職。「HiVi」、「ホームシアター」の編集長を経て、2006年にオーディオ評論家へ転身。「アナログからストリーミングまで、オーディオを楽しみ尽くす」をモットーに、最新オーディオ&AV事情を分かりやすくかつディープに読者に届けている。
今回試乗したEQE350+にはBurmester 3Dサラウンドサウンドシステムを標準装備。EVならではの静かな環境で上質なサウンドを楽しむことができる。

スローガンは”Art for the Ear”
マニア憧れのBurmester

ぼくたちオーディオマニアにとって、BurmesterのアンプやCDプレーヤーは憧れの製品だ。値段は高いが、世界最高峰レベルの音質を実現しているからである。

Burmester社(ブルメスター・オーディオ・システム)は1978年にドイツ・ベルリンで設立されている。創業者のディーター・ブルメスターは、会社設立前、電子工学を修めながらプロのロック・ギタリスト&作曲家として活躍していたという。

彼が掲げた音づくりのスローガンは”Art for the Ear”。芸術レベルを目指した音質をエレクトロニクス機器で実現するという高邁な理想を抱いて高級オーディオ機器の開発に勤しんでいたのだが、残念ながらディーターは2015年に69歳でこの世を去ってしまう。以降、彼のフィロソフィーを受け継いだ精鋭スタッフによって、製品づくりが続けられているわけだ。

同社のホームオーディオ機器はすべて、肉厚のアノダイズド・アルミニウムを用いたクールな質感のエクステリア・デザインが採用されている。

運転席だけでなくリアシートでもサウンドの聴こえ方をチェックする山本さん。

ハイエンドオーディオは手が出ないが
カーオーディオなら現実的な価格

先述の通り、その音質は最高。なかでもプリアンプ077とステレオパワーアンプ218の組み合わせが聴かせてくれるサウンドは、繊細さと力感を高度に両立し、独特の輝きを放っていて、個人的には現代ハイエンドオーディオ・アンプの理想像の一つではないかと考えている。自分でも使ってみたいが、077、218ともに価格は700万円超、合わせて1500万円近くともなると、おいそれと手が出ない……。

さて、そんなふうにホームオーディオ製品として憧れていたBurmesterが、近年カーオーディオ製品にも力を入れているという話は聞いていた。そしてそのサウンドシステムがメルセデス・ベンツのクルマに採用されたという話を聞き、一度その音を聴いてみたいなと考えていたのだ。

すると、ヤナセから「メルセデスの電気自動車、EQE350+に標準装備されたブルメスター・サウンドを聴いてみませんか」とのお誘いが。お断りする理由などない。夏の暑い盛り、東京・お台場にある潮風公園に出かけ、EQE350+に乗り込んで、その音をじっくり体験してみた。

上:サウンドのバランスや音量を細かく簡単にプリセットできるパーソナルサウンドプロファイル。 左:リスニングポイントを調整するサウンドフォーカス。 右:イコライザーで好みの音に調整することも可能。

3Dレベルとサラウンドレベルを
個別に調整して臨場感を楽しめる

運転席左側正面にある大型ディスプレイのオーディオ操作画面を見ながら、どんな音質調整ができるのかをじっくり精査してみた。まず「サウンドフォーカス」調整で、運転席で聴くのか後部座席で聴くのかを決定する。この操作で、座る場所に合った最適な音像位置が得られるわけだ。自分の好きなヴォーカリストの声が、違和感なく眼前に浮かび上がるのは大きなヨロコビだ。

そして、低い音から高い音まで自分の好みに合わせて、細かくイコライジングが可能。いろいろいじってみたが、実際にはデフォルト位置がいちばん好ましかった。

興味深いのは、3Dレベルとサラウンドレベルが個別に調整できること。前者は垂直方向の、後者は水平方向の広がりを決めることができる。クラシックのシンフォニーやビッグバンド・ジャズなどを水平・垂直ともにグンと広げると爽快だし、ギターの弾き語りや弦楽四重奏、ピアノ・ソナタなどは広がりを抑えたほうが好ましい結果が得られそうだ。ぼくは「ピュア」モードで聴くのがいちばんしっくり来た。

それから、バス(低音)特性として、「ニュートラル」「ウォーム」「シャープ」を決めることが可能。切り替えていくと、たしかに低音の質感は変化するが、「ニュートラル」設定でどんなジャンルの音楽でも問題がないと思った。

走行中にエンジン音がしないEVはクルマで音楽を存分に楽しみたい人にとって快適な環境を提供してくれる。
「70年代のアナログ録音には、最新のデジタル録音でも敵わない」と話す山本さん。今回はUSBメモリに記録した音源を中心に視聴したが、もちろんBluetoothでデバイスを接続することもできる。

すばらしい音をお供にドライブに
出かける楽しさは唯一無二

ざっと調整項目を調べたのち、好きな音楽を流しながらクルージングに出かけた。ふだんガソリン車に乗っている身からすると、電気自動車であるEQE350+の「サイレンス」は驚きだ。車内がこれだけ静かだと、当然ながら音楽のディティールがよりいっそう浮彫りになり、深く聴き込むことができる。なるほど「音楽を聴くクルマ」としてEVに注目するというミュージックラバーも今後出てくるのではないかと思う。

USBメモリに好きな音楽を収めてそれを中心に聴いたが、ハイレゾで聴く女性ヴォーカルがとても素敵だった。リビー・タイタス、リンダ・ロンシュタット、ロ-ラ・アラン、ニコレッタ・ラーソン、ヴァレリー・カーターなど1970~1980年代にアメリカ西海岸で活躍した女性たちの歌をたくさん聴いてみたが、そのニュアンスに富んだ美しいヴォーカルにうっとりと聴き惚れる結果に。眼前に彼女たちの歌う姿がぽっかりと浮かび上がる快感といったらない。酷暑もだいぶ和らぐ。

最後に、内田光子がクリーブランド管弦楽団を弾き振りしたモーツァルトのピアノ・コンチェルトを聴いてみたが、これもすばらしかった。立体的に広がるオーケストラ・サウンドの中央に内田が弾く美しい音色のピアノが確かな実在感を伴ってシャープに屹立する。その美しい音を聴きながら、「モーツァルトの悲しみは疾走する。涙は追いつけない」という小林秀雄の美しいことばをぼくは反芻していた。

今回試乗したEQE350+は、このBurmester 3Dサラウンドサウンドシステムが標準装備されているが、オプション扱いとなる車種もあるようだ。この3Dサラウンドサウンドシステムはパッケージオプションなど車種により設定が異なるため金額も変わってくるが、ぼくなら絶対取り付けるなあ。このすばらしい音をお供にドライブに出かける楽しさは唯一無二、人生がいっそう実り豊かなものになるのは間違いないと思う。

今回の取材車両

Mercedes-Benz EQE350+

滑らかな弧を描く流麗なシルエットとロングホイールベースがもたらす広々とした室内空間が特長の、EV専用モデル。充電は普通充電と急速充電に対応。一充電走行距離(WLTCモード)は624km。

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