ヤナセとクルマとヒトのコト Vol.5
数多くの選択肢からもっともオリジナルの状態に近づけるヤナセの板金作業
雹(ひょう)などの天災や不慮の接触事故など、クルマを所有しているとどんなに注意していてもキズやへこみの発生から避けられないケースが起こりうる。板金作業は、そんな時にクルマの形状に合わせてボディの傷やへこみを修復する工程だ。ヤナセにおいてはどのような板金作業が行われているのだろうか。そしてヤナセの板金を選ぶ意味と価値はどういったところにあるのだろうか。
- 2024年01月25日
- 文:伊達軍曹
- 写真:尾形和美



板金部門の存在もヤナセでクルマを買うべき理由のひとつ
「お客様がヤナセでクルマをお買い求めになることの価値は、セールススタッフや整備スタッフが、お客様の『クルマのある人生』を創ることに尽力しているからだと考えています。加えて、われわれ板金作業を担うスタッフの存在もまた、お客様にとってヤナセでクルマを購入する大きな理由になり得るのではないかと思うのです」
そう語るのはヤナセオートシステムズで板金作業を担当する、入社7年目の志村一樹だ。
「どんなに注意し、安全運転を行っていても、クルマを所有しているとどうしても板金作業を行わなければならないケースが発生する可能性があります。もちろん、ヤナセ以外の工場でも修復作業を行うことは可能でしょう。しかしヤナセにお任せいただければ、以前の状態に極力近くなるような作業を「見えないところ」まで実施します。それが長い目で見た場合に、ヤナセを選んでいただく価値のひとつであると思っています」
へこみを整えるために、内側から押したり、外側から引っ張ったりする板金作業。概ね成形したあとは、パテを盛って細かく形を整えていく。近年ではこのパテの進化が著しく、ボディパネルの色の上にそのまま塗っても、剥がれづらいようになってきている。そのため効率を重視して、色を剥がさないままパテ塗り作業を行う工場も少なくない。
だがヤナセは、それを良しとはしない。


「できる限り本来の状態に戻す」のがヤナセの信念
「板金に対するヤナセの基本的な考え方は、できる限り本来のパネル状態に戻すというもの。そのためには、盛るパテはなるべく薄くしたいのです」
復元のために使用するパテは年々性能がよくなってきており、厚く盛っても剥がれにくくなってきている。その性能を頼り、本来のパネル修復を7割ほどで終えてパテに頼ることも可能ではある。
「そういったやり方でも短期的には大きな問題はないのです。しかし、それはオリジナルに近いパネルとはほど遠いものですし、もし再び破損してしまったとき、ダメージが大きく広がる可能性が高くなります」
パテには柔軟性がない。再びダメージを受けた箇所が過去に補修した箇所そのものではなく、そこに近い箇所にすぎなかったとしても、色を剥がさないままパテを塗った場合は、前回の補修箇所にまで割れが発生してしまう可能性があるということだ。
「キレイに色を塗ってしまえば、その下がどうなっているかわかりにくいものです。しかし、そういった見えないところまで1つ1つ丁寧に作業することで、後々まで安全を確保してお客様のカーライフをサポートし、安心してお乗りいただくというのが、ヤナセのボディリペアーの基本姿勢なのです」


さまざまな手法から最善の一手を選んで打つ
手数(てかず)が多いこともヤナセの板金の特徴であるといる。
「手数とは作業工程が多いということではなく、補修作業を行う際に選択できる手段の数ということです。ヤナセの板金は、作業手法の選択肢がとても広いんですね。各種の大型ツールから小さな道具類まで、板金作業に必要な多様なツールがそろっていて、そういったツールを適切に用いるための知見も有しています。だからこそ入庫してきたクルマの状態に対して『最善の手』を選ぶことができるのです」
必要なツールとそれを適切に扱う知識と経験さえあれば、ヤナセ以外の工場であっても同様の作業を行うことはできるはずだという。だが、規模や予算、スペースなどの都合で、ヤナセと同等の選択肢を有する大規模な工場は多くはない。
つまりヤナセの板金部門とは、最新・最先端の医療機器と、優秀で経験豊富な臨床医師がそろっている総合病院のようなもの――といえるのかもしれない。そうであれば確かに、その病院の「紹介状」や「診察券」は持っていたいものである。
しかし志村は「とはいえ、いつまでたっても自分は半人前です」と言う。それは、決して志村の技術が至らないという意味ではない。クルマの進化は著しく、10年前の技術や常識はすぐに通用しなくなる。「半人前」とは、常に自身をアップデートしていかなければならない、といった具合の意味だ。


最新のクルマに対応した最善の手法を追求する
「板金というと、あて板とハンマーを使ってボディパネルを叩いていくというイメージがあるかもしれません。もちろん今でもそういった作業は存在しますが、できる車種は限られています。現代のクルマはボディパネルが二重になっていることが多く、リアフェンダー付近などさまざまなセンサーやユニット類も集中している箇所には、そもそもあて板を入れるスペースがない場合が多いのです。パネルの厚みも以前の半分くらいになっているため、ハンマーで叩くと歪んでしまう可能性も高いのです」
そういったクルマの進化のなかで最善を追い求めていくため、「自分はまだまだ半人前」という感覚は、おそらく一生つきまとうのではないかと志村は語る。ハンマー等による対処は可能ではあるものの、鉄製ボディの場合よりはるかに難しいというアルミニウム製ボディと対峙し、さまざまな電子ユニットが満載されているEVの板金作業にも挑まなければならない。
さらにヤナセオートシステムズは、ヤナセ取り扱いブランドはもちろん、フェラーリやランボルギーニ、マクラーレンやテスラなど、ヤナセが販売を取り扱っていないブランドについても認定工場の資格を取得している。こういったブランドのクルマについても知識と技能を有さねばならないとなれば、確かに志村の研鑽の日々に終わりはないのかもしれない。
だが「難しい仕事だからこそ面白いですし、お客様のクルマがキレイな状態に戻ると、このうえない喜びを感じるんです。この職業に就いて本当に良かったと思っていますし、他のどこでもない『ヤナセ』で板金の道に打ち込める自分は幸せ者なのだと思います」と、志村は言う。
そんな想いと志を持つ板金スタッフを擁するヤナセは、やはり「クルマのある人生をつくっている」企業であると言わざるを得ない。
