「日本でもっともEQシリーズを売る」ディーラーの秘密とは
メルセデス・ベンツ沖縄は、2023年にメルセデス・ベンツの正規販売店のなかでもっともEQシリーズを売り上げた店舗として、メルセデス・ベンツ日本から表彰された実績がある。沖縄で電気自動車であるEQシリーズが売れる背景としては、他の地域とは異なる住宅環境や「島」という地理特性が挙げられるが、その裏側には環境とユーザーをマッチングさせるための“ディーラーマン”による隠れた努力があった。
- 2024年07月25日
- 文:渡瀬基樹
- 写真:佐藤亮太



「島」だからこそ充電に対する心配が少ない
「Mercedes-Benz Dealer Award 2023」において「最優秀Mercedes-EQ賞」を受賞したメルセデス・ベンツ沖縄は、2023年に日本で最もEQシリーズを売り上げたディーラーとなった。全販売台数におけるEQシリーズの割合は3割前後と、通常は1割以下の他と比べて傑出して高い。メルセデス・ベンツ沖縄の山中は、その背景をこう説明する。
「沖縄は島ですので、県をまたいでの移動というものが基本的にありません。本島は南から北まで約180kmほどの距離ですので、やはり充電に関する不安が少ないという地理的条件が、EQを選ばれるお客様が多い最大の理由だと思います」(山中)
充電設備の設置しやすさも理由の1つだ。首都圏や関西圏をはじめ、マンションなどの集合住宅の割合が多い地域に比べ、一戸建ての比率が圧倒的に高い沖縄では、自宅へ充電設備を設置する難易度が低い。また一家に一台ではなく、一人一台が当たり前という環境であるため、家族で所有する数台のクルマのうち、一台がEVであっても不安が少ないという背景がある。
ただしそういった理由は、都市部を除けばどの地域でも同じ。支店長の山中光一がキーマンとして挙げるのが、抜群の販売実績を誇る、セールスの青木だ。
「私はEQを売りたいと思っているわけではありません。お客様の環境に合わせて、どんなモデルをマッチングさせるか考えた結果、EQシリーズに適した方が増えたということです。たとえばソーラーパネルを戸建てのご自宅に設置しているお客様の場合、近年は余った電力を販売する売電価格が下落し、収益が下がっています。そのため『売るより使う』という発想でEQシリーズをおすすめすると、興味を持っていただける方が多いのです」(青木)


「台風で停電に見舞われやすい」からEQを薦める
さらに、沖縄ならではの過酷な環境も関連する。台風が多い沖縄では、台風の通過後には市町村によって長期間の停電に見舞われる地域が一定数存在する。真夏にも関わらず、数日間にわたってクーラーも使えないということが、しばしば起こりうるのだ。
「そういったお客様にはV2H(※1)に対応可能なEQEやEQSといったモデル(※2)をおすすめしてきました。EQSのバッテリー容量であれば、家庭で使用する1週間ほどの電気を賄える場合もあります」(青木)
一方で沖縄では、マンションなどの集合住宅に住みながらEQシリーズを所有する人もいるという。
「EQシリーズはバッテリーの容量が大きいため、一般的な使用用途であれば、月に数回急速充電すれば充分。ご自宅にソーラーパネルなどを設置していなくても、ガソリン車の燃料代より電気代のほうが優位性があることをご説明すれば、納得してくれるお客様が多いです」(青木)
「メンテナンスの面でも、定期点検をしっかりと行えばトラブルはほとんど起こりません。そもそもオイル交換など消耗品が少ないため、EQシリーズはメンテナンス作業の内容もとても少ないのです」(山中)
- ※1V2H(Vehicle to Home)はEV(電気自動車)などに搭載した電池から、自宅へ電力を供給できる機能。クルマを緊急時の電源として使用できる。
- ※22024年7月現在、V2Hに対応しているメルセデス・ベンツEQの車種はEQS、EQS SUV、EQE、 EQE SUV、EQA(マイナーチェンジ後)。


1回の商談で決めていただける材料を揃える
「セールスにとってもっとも重要なのは、徹底的にお客様のことを考えることだと思っています。売れない理由を突きつめれば、必ず原因が見つかるはず。その解決策をご提案すれば、お客様は必ず納得してくれます」(青木)
青木は県内にあるマンションの管理組合に出向いて交渉し、マンション内の充電設備の設置にこぎ着けたこともあるという。顧客のことを徹底的に考える姿勢が、セールスの結果に表れている。
「できればお客様には何度もご来店いただくのではなく、1回の商談で決めていただきたいと思っているのです。たとえばお客様の駐車場が機械式であれば、サイズだけでなく重量制限もあらかじめ調べておく。EQシリーズはガソリン車より重量がありますから、それがあとで障害となる可能性があるわけです。そういったちょっとしたことを調べ、覚えておくことを積み重ねて、商談で納得いただけるための事前準備を自分に課しています」(青木)
こういった青木の知識や考え方は、他のスタッフにも共有され、波及していっている。
「セールススタッフだけでなく、サービスアドバイザーやサービススタッフまで、課題や問題があれば全員で考え、みんなが同じ情報を共有するという仕組みができています。青木のセールストークを他のスタッフが参考にして、お客様にご提案するということも多いのです」(山中)


特別なことはせず、継続していくことが目標
現在は多くのお客様に支持されているメルセデス・ベンツ沖縄だが、勢いに乗って営業活動に邁進するという「熱」を、表だって感じることはない。
「沖縄はマーケット的には決して大きい地域ではありません。営業成績への評価や表彰を受けたことで、全国的に注目されることも増えましたが、何か特別なことをするのではなく、ありのままのメルセデス・ベンツ沖縄を続けられればと考えています」(山中)
「自分自身もテンションが上がったり下がったりといったことはありません。現在の状況を継続することが目標であり、それがいちばん難しいことだと考えています。軸をぶらさず、浮かれずに続けていきたい。表彰や取材をいろいろとしていただきましたが、正直なところこのレベルでこんなことになっちゃうんだという気持ちもあるほど、自分としては当たり前のことをしているつもりなんです」(青木)
確かに、お客様のことを第一に考え、買っていただく理由を突きつめて考えていくことはセールスの常道だ。しかしそれを微に入り細に入り、徹底して突きつめていけば、特別なものになっていくということなのだろう。

