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Mercedes-Benz EQB / GLB Impression

EQシリーズに加わった、ミドルサイズの3列シートEVという新たな選択肢

メルセデス・ベンツの100%電気自動車「Mercedes-EQ」。「EQC」、「EQA」に続く第3弾モデルとして登場した「EQB」は、ミドルクラスSUVである「GLB」の特長である3列シートを備えた電気自動車のSUVです。ミドルクラスSUVならではの世界観は、電気自動車にも受け継がれているのか。「GLB」と「EQB」を比較しながら考えてみました。

  • 2022年10月11日
  • 写真:阿部昌也
  • 文:嶋田智之
「メルセデス・ベンツ GLB 180」。スクエアでパワフルなエクステリアによりサイズ感以上の力強さが感じられる。ボックス形状のボディにより3列目シートのヘッドクリアランスが確保されているのがわかる。
日よけの役割をするインパネ上方のカウルを廃し、ワイドスクリーンディスプレイをダッシュボードに配置。これにより広がり感のあるインテリアになっている。
1,331cc直列4気筒DOHCターボエンジンと7速ATを搭載。最高出力100kW/5,500rpm、最大トルク200N・m/1,460-4,000rpm。

バランスの取れた
7人乗りミドルクラスSUV

今さらこんなことを述べるまでもないのでしょうが、昔はニッチな存在だったSUVは、もはや完全に乗用車のひとつのカテゴリーとして定着しています。しかも、ひと頃は家族のためのクルマとして絶対的な地位を築いていたミニバンと、ほぼ肩を並べるといえるほどの人気カテゴリー。

とりわけボディサイズが大きすぎず小さすぎずで、日々のパートナーとしてバランスのいいミドルクラスは注目度も高く、魅力的なモデルがたくさん顔を並べています。激戦区といっていいでしょう。

その中にあって「メルセデス・ベンツGLB」は、このサイズのSUVとしては例の少ない3列目シートを持った7人乗りであることも手伝って、多くの支持を集めています。

2020年の6月に日本上陸を果たした「GLB」は、メルセデス・ベンツのSUVとしては2番目にコンパクトなモデル。もう少し小さい「GLA」ともう少し大きな「GLC」が地上高の高いショートワゴン、あるいは背の高いハッチバックといったイメージのスタイリングであるのに対して、「GLB」は四隅のしっかり切り立ったSUVらしいデザインが特徴です。標準的な仕様では全長が4,640mm、全幅が1,835mm、全高が1,700mm。堂々とした印象のスクエアなフォルムからもっと大きなクルマだと思われがちですが、実際には見た目よりもずいぶん小さいのです。

  • 今回の試乗車はAMGラインパッケージ(パッケージオプション)装着車。全長は4,640mm、全幅1,845mm、全高1,700mm。

GLBが切り開いた、
ミドルサイズで3列シートという便利さ

3列目シートを持つSUVは、ボディの大きなモデルであるのが一般的です。「GLB」も、小型SUV大国である日本の感覚からすれば必ずしもコンパクトとは言えないでしょう。

もちろん車体の大きなミニバンではありませんから、3列目のシートは前の2列のようなゆったりしたものではありません。あくまでも『いざというとき』のため、あるいは子ども用として設えられたもの。身長168cm以下の乗員のみが使用できます。それでもこのシートの存在が、ひとつの大きなアドバンテージであることは間違いないでしょう。

そして、ともすればそちらにばかり意識がいってしまいがちですが、何よりこれがメルセデス・ベンツのクルマであるということを忘れてはいけません。1台のクルマとして、基本がしっかりしているのです。

あいにく僕は「GLB 200 d 4MATIC」しか走らせたことがないのですが、車体ががっちりしていて安心感はあるし、最高出力110kWに最大トルク320N・mの1,949cc直列4気筒のディーゼルエンジンと8速ATの組み合わせは、一般道であっても高速道路であっても控えめなスペックが謙遜であるかのように思えるほどよく走ってくれました。

それにクラスや価格がもっと上のモデルたちと、先進運転支援システムや予防安全装備に差がつけられていないことにも好感が持てます。

そうした基本性能と安全性をまったくおろそかにしていないあたりから、メルセデス・ベンツとしての軸足のブレのなさが感じられるのです。仮に3列目シートが備わっていなかったとしても、ミドルクラスのSUVとして高評価を得ることができたに違いありません。

「プログレッシブ・ラグジュアリー」というコンセプトで電気自動車らしい先進的なデザインになった「EQB」のエクステリア。中央にスリーポインテッドスターを配置したブラックパネルグリルと水平基調のLEDヘッドライト、ライトストリップと一体化したリアコンビネーションランプが印象的。

ワイルドなGLB、
未来的で優しげなEQB

その「GLB」をベースにしたEVが、今年の7月から日本に導入されています。メルセデス・ベンツの電気自動車のシリーズ「EQ」の3番目のモデルとなる、「EQB」です。

「EQB」はプラットフォーム、基本骨格を「GLB」と共有するモデルで、そのシルエットはよく似ています。が、フロントまわりのフラッシュサーフェス化が進められていることで、顔つきの印象はだいぶ変わっています。ややワイルドな印象のGLBに対して、ちょっと未来的で優しい表情、と言えるかもしれません。

ボディサイズは全長が4,685mm、全幅が1,835mm、全高が1,705mmで、これは「GLB」に対して45mm長く、5mm高い計算です。もちろん「GLB」の強みである3列目シートを「EQB」も受け継いでいますから、日本の道路事情に無理なくマッチする3列目シートを持つ唯一のEV、ということもできるかもしれません。

  • 標準モデル(AMGラインパッケージ非装着車)

インテリアに目を移してみると、基本的なデザインは「GLB」とほぼ共通ながら、助手席側のダッシュボードやドアパネルにバックライトで演出されるドット調のパネルがあしらわれ、エアコンの吹き出し口もローズゴールドとなるなどディテールが異なっていて、少し先進的な雰囲気を醸し出しています。

シートのレイアウトは「GLB」と共通で、前から2/3/2の7人乗り。2列目シートの背面は40:20:40の分割可倒式で、座面は60:40分割。前後に140mmスライドさせることが可能なので、5人乗車のときには後方にセットして2列目の足元を広くとり、3列目のシートを使うときには前へ寄せて最後席の足元を確保する、といった使い方をすることが可能になっています。

3列目シートは背面、座面ともに左右がそれぞれ独立しており、片側を活かしてもう片側を格納するようなアレンジも可能です。ただしEQBの場合は、身長制限が3cm小さく、身長165cm以下の乗員のみが使用できます。とはいえ、このシートのそもそもの使い方を考えると、それが理由で困った事態に陥ることはほとんどないでしょう。

ワイドスクリーンディスプレイは「GLB」と共通。助手席前には未来を感じさせるバックライト付きのスパイラル調インテリアトリムを配置。
ジェットエンジンのタービンをイメージしたスポーティなエアアウトレットにはモーターのコイルの色をモチーフにしたローズゴールドが配色されている。
前輪駆動の「EQB 250」のモーターは最高出力140kW/3,550-11,130rpm、最大トルク385N・m/0-3,550rpmを発揮する。回生ブレーキの強度はステアリング裏に配置されたパドルで4段階の手動設定が可能。
「EQB」のラゲッジスペースは3列目シート使用時で110L、3列目シート格納時で、465L、2列目シート格納時で1,620L。床下に大容量バッテリーを搭載しているため「GLB」よりラゲッジ容量は小さくなっているが、ミドルクラスSUVとして十分に広いスペースが確保されている。

ミドルクラスSUVの使い勝手は
スポイルされていない

荷室容量は、3列目シートの背面を起こした状態で110L、3列目シートを格納すると465L、3列目も2列目もすべて格納すると1620L。「GLB」よりそれぞれ20L、35L、60L小さい計算です。その数値を耳にすると、ずいぶん狭くなったように思われることでしょう。

が、この容量を計るVDA方式というのは規定としている箱がいくつどれだけ積み込めるかを数値に置き換えるもの。荷室の高さが3mm低い、横幅が5mm足りない、といったわずかな違いで箱を入れられないという場合でも、容量の数値は大幅に減少してしまうという方式です。

さらに申し上げるなら、そもそも皆さん、ラゲッジスペースの天井までみっちり荷物を積み込むなんてこと、日常的にありますか? そう、こちらもさほど困った事態に陥ることはないように思えます。

それらの数値の上での違いは確かにバッテリーをフロア下に敷き詰めてフロアが嵩上げされていることに起因するものですが、「だからといって『GLB』が持っている利便性や使い勝手の良さは、EVの『EQB』になってもほとんどスポイルされていないのじゃないか?」というのが僕の私見です。

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