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Mercedes-Benz EQB / GLB Impression
EQシリーズに加わった、ミドルサイズの3列シートEVという新たな選択肢
メルセデス・ベンツの100%電気自動車「Mercedes-EQ」。「EQC」、「EQA」に続く第3弾モデルとして登場した「EQB」は、ミドルクラスSUVである「GLB」の特長である3列シートを備えた電気自動車のSUVです。ミドルクラスSUVならではの世界観は、電気自動車にも受け継がれているのか。「GLB」と「EQB」を比較しながら考えてみました。
- 2022年10月11日
- 写真:阿部昌也
- 文:嶋田智之



EVに必要な充電機構は、
車体右側後方に集約
「EQB」には前輪駆動の「EQB 250」と四輪駆動の「EQB 350 4MATIC」の2つのグレードがラインアップされていますが、バッテリーはどちらも同じ、フロア下に敷かれたその66.5kWhのリチウムイオンです。
ただしモーターは異なっていて、「EQB 250」は新設計の交流同期モーターで前輪を駆動し、最高出力は140kW、最大トルクは385N・m。こちらの一充電走行距離はWLTCモードで520kmとなります。
もう一方の「EQB 350 4MATIC」は、フロントアクスルに従来型の交流誘導モーターを1基、リアに新しい交流同期モーターを1基搭載していて、フロントモーターの最高出力は143kWで最大トルクは370N・m、リアモーターは最高出力72kWに最大トルク150N・m。システム全体では最高出力215kWに最大トルク520N・mで、一充電走行距離はWLTCモードで468kmです。
新開発の交流同期モーターは、出力密度が高い上に高効率というメリットを持っています。「EQB 250」の一充電走行距離などを見ればはっきりと解るように、その効果はしっかり数値にも出てきていますね。
ちなみに充電はAC200Vの普通充電とCHAdeMOの急速充電に対応していて、右のリアフェンダーに急速充電用、リアバンパーの右側に普通充電用と、充電口がどちらも右のリア側に集められていることには感心させられました。
EVではこれが左右に振り分けた配置とされていることが少なくないのですが、おかげで充電スタンドへアプローチするときに一瞬「どっちだっけ?」と戸惑ってしまうことも意外やあったりするのです。「EQB」の場合は右側にあることだけ意識しておけばいいわけですから、リラックスした気持ちで充電スタンドに向かえます。

穏やかさと俊敏さが共存した、
EVらしい走り
さて、今回試乗することができたのは、前輪駆動の「EQB 250」でした。
ドライバーズシートに座って最初に気づいたのは、「GLB」譲りの視界の良さでした。Aピラーの根本の位置と傾斜の角度が絶妙な上、車体がスクエアで見切りがいいから、死角が少なくクルマの四隅もつかみやすいのです。サイドウィンドウの下側が低く水平なことも、側方の視認性を高めてくれています。
システムを起動してメルセデス・ベンツ特有のセレクターレバーを指で押し下げると、スタートの準備は完了。ふんわりアクセルペダルを踏んでいくと、「EQB」はごくごく自然なフィールで前へと進み始めます。
発進の段階では、無用な機敏さや無駄な鋭さといった尖ったところはどこにもなし。徹頭徹尾、滑らかです。穏やかに走るためのペダルワークを心掛けている限り、重厚で力にも過不足のないその洗練された乗り味をいつまでも満喫することができるでしょう。
ところが、ひとたびアクセルペダルをグイと踏み込んだりすると、ちょっとしたトルクステアを感じさせるぐらいの勢いで、強力な加速を味わわせてくれるのです。持ち前の瞬発力を瞬時に解き放った感じで、かなり爽快です。
のんびり走りたいときには穏やかに反応してくれて、ちょっとスポーティに走りたいときにはダイナミックなフィールすら感じさせてくれる。それがシームレスに行き来するのです。モーター駆動の利点をしっかり活かしつつ、それを全域にわたって緻密に巧みに制御しているのですね。
きっとパフォーマンスの面からいうなら間違いなく「EQB 350 4MATIC」の方が上なのでしょうが、「EQB 250」の力強さ、得られるスピード感、反応の適度なダイレクト感など、何ひとつ不満を感じることはありませんでした。この力強さがあれば、仮に7人フル乗車であったとしても、加速が鈍くて苦笑いさせられるようなことにはならないでしょう。
EVだからこそ実現できる、大人っぽいしっとりした乗り心地
静けさも美点のひとつです。微かに聞こえてくるのはタイヤのノイズとモーターのちょっとばかり未来感を思わせるサウンドのみ。クルマが発する音に邪魔されることがないから、助手席の人との会話も常にクリアです。家族や仲間と一緒に移動するときには、この静粛性の高さがありがたく感じられるはず。こればかりはガソリンエンジンやディーゼルエンジンのクルマがどうがんばっても追いつけないレベルでしょう。
乗り心地に関しては、「GLB」よりもさらにしっとりと落ち着いて、大人っぽい快適さを手に入れているように感じました。「EQB 250」の車両重量は2,100kg。「GLB」のエントリーモデルである「GLB 180」と比較すると、480kgも重いわけです。
が、その重さはいわゆるバネ下のバタつきが生み出すがさつなフィーリングを抑える役割を果たしてくれていますし、重いことを前提として最適化が計られたサスペンションも硬すぎず柔らかすぎずのちょうどいいゾーンにあるようなフィーリングで、そのフラットな乗り味には上質感すら感じられます。重心が低く、重いものが車両の中心に集められているため、ハンドリングの素直さもくっきりと浮き立って、心地好さをともなって曲がってくれるような印象です。







一充電走行距離520km。
これだけあれば日々の暮らしで
不自由なく乗れる
「EQB」をひと言で表すなら、「EVならではのメリットをほどよいサイズの車体にギュッと凝縮したようなクルマ」ということになるでしょう。
もちろんガソリンエンジンとディーゼルエンジンを搭載する「GLB」も充分に魅力的なSUVですし、充電スポットのことなど気にすることなく遠くまで自由に脚を伸ばせるという大きなメリットだってあります。
が、「EQB 250」では多くの人が気にしている一充電走行距離も520kmまで伸びています。「自宅に普通充電ができる環境を用意できるなら」という前提つきですが、そのくらい走ってくれれば日々の暮らしの中でさほど不自由なく乗ることができるでしょう。
どちらを選ぶかは、あなた次第。選択の自由があるのはありがたいことですが、ちょっとばかり悩ましい選択になるかもしれませんね。








「もう1人か2人乗れたらハッピー」を叶えてくれるパッケージング
ちなみに僕はメルセデス・ベンツが推奨する身長は超えていますが、最後に「GLB」と「EQB」のそれぞれの3列目シートに収まってみました。2列目のシートを前方にスライドすることで生じるわずかなスペースから潜り込んで腰を下ろしてみると、中肉中背の男性がふたり、ポコッとはまり込むようにして収まる感じです。
「GLB」も「EQB」も基本は一緒ですが、「EQB」の方がわずかに上下方向がきついと感じはしたものの、「左右それぞれが独立した格納式シートをよくぞこのスペースにセットできたものだ」とパッケージングの巧みさに唸らされました。はまり込んでしまうと妙に落ち着いたような気持ちになったりする部分もあって、30分ぐらいならそれを楽しんでいられるかもしれないけれど、上下左右のスペースもさることながら足元の自由度がほとんどないこともあって、1時間ここで過ごすのはつらいかも、なんて感じたものでした。
ただし、やはりあるのとないのでは大違いという側面もあるだろうな、とも思います。例えば子育て世代のお子さんの送り迎え、例えば家族や仲間と軽めのお出掛けのときなど、「もう1人か2人乗ることができたら誰もがハッピーなのに……」なんて思わされるようなシチュエーションは、誰もが一度は経験したことがあるはずです。
それに限られたスペースにぎゅうぎゅう詰めになってワイワイ移動するのも──短い時間であれば──意外や楽しかったりするものです。車室内がとても静かで会話の邪魔をしないEQBであれば、なおのこと。
普段は荷室に格納している+2の小さなシートを引き起こすとき、そこから何か素敵な時間、人と人との素敵な関係性が広がっていくことになるのかもしれません。
Specifications
Mercedes-Benz EQB | Mercedes-Benz GLB | |
---|---|---|
グレード | EQB 250 | GLB 180 |
全長×全幅×全高 | 4,685×1,835×1,705mm | 4,640〈4,650〉×1,835〈1,845〉×1,700mm |
ホイールベース | 2,830mm | 2,830mm |
車両重量 | 2,100kg | 1620〈1,640〉kg |
最小回転半径 | 5.5m | 5.5m |
乗車定員 | 7名 | 7名 |
駆動方式 | FF | FF |
電動機/エンジン種類・排気量 | 交流同期電動機 | 直列4気筒・1331cc |
最高出力 | 140kW/3,550-11,130rpm | 100kW/5,500rpm |
最大トルク | 385N・m/0-3550rpm | 200N・m/1,460-4,000rpm |
一充電走行距離(WLTCモード) | 520km | ー |
燃料消費率(WLTCモード) | ー | 13.4km/L |
ラゲッジスペース・3列目シート使用時 | 110L(VDA方式) | 130L(VDA方式) |
ラゲッジスペース・3列目シート格納時 | 465L(VDA方式) | 500L(VDA方式) |
ラゲッジスペース・2列目シート格納時 | 1,620L(VDA方式) | 1,680L(VDA方式) |
価格・数値は2022年10月現在のものです
〈〉はAMGラインパッケージ(オプション)装着時
項目表記は、メーカーカタログ参照